土受けワンライ 幼少期、一途、誕生日
土方の家は幼少期の頃から、誕生日には毎年旅行に出かけた。五月五日はGW真っ只中で、遊びには出やすい。
家は少しばかり裕福で別荘と言える場所があった。ただ、毎年お決まりのパターンで正直飽きてもくる。田舎でこれといった娯楽もない。大人ばかりの集まりで子供の居場所はあまりない。子供が居るにはいるが、歳が離れすぎている。
まあ、子供が少ないということは貰える小遣いやおもちゃは多くなる。利点と言えばそれくらいだろう。小学生くらいならまだしも、中学生、高校生ともなると友達と遊びに行くほうがずっとよかった。
高校生になった頃だ。知らない子供が別荘にやってきた。体格的には小学校の一年生くらいだろうか。片目を髪で隠したなんとも生意気そうな少年だった。他の家の別荘もあるから、そこから迷いこんだのだろう サッカーボールを持ってこちらを睨んでいた。
「サッカーするか?お前もつまんねぇから飛び出したんだろ?」
少年は意外にも素直に頷いた。この少年も周りが大人だらけで、遊び相手がいないのだろう。
高校生になったら少しは大人に混じれるかと思っていたが、そうでもなかった。みんな、会社がどうとか株がどうとか、そういう話ばかりだった。
少年の名前は高杉晋助と言った。名前も話し方もしっかりしている。口調は少し乱暴でも、所作から育ちの良さが滲み出ている。
「一年生なのにしっかりしてるな」
「俺は三年生だ」
逆鱗に触れたらしく、思い切り脛を蹴られて悶絶することになる。
翌日、機嫌を損ねてやって来ないかと思っていたが普通に来た。お互いの家の大人はつまらない話ばかりだから、一日中日が暮れるまで二人で遊んでいた。
帰る前日に高杉は花を一輪持ってきた。買ってきたのではなく、その辺に咲いている花だ。最寄りのスーパーもコンビニもここから何キロも離れている。子供の力じゃとてもじゃないが難しい。(高杉の場合は普通に辿り着けそうだが)遊んで貰ったお礼だろうとありがたく受け取った。
翌年も高杉は現れた。その翌年もまた。そして高杉と一日中遊んで、最後の日に花を貰う。毎年、毎年飽きずに一途なものだと感心する。
それは大学を卒業するまで続いた。高杉も中学生になって、年の割に少し大人びてきている。顔立ちも女子が放っておかないだろう、という雰囲気だ。それなりの付き合いだから、親心というかそういう方面も気になってくる。
「好きなヤツがいるから全員断ってる」
迷惑そうに高杉は答えた。毎日のように告白されるから、とかなり辟易しているようだ。「モテたい」「お妙さんにフラれた」と毎日泣いている、近藤さんが聞いたら卒倒しそうである。
そして、高杉から花を贈られる。流石にもういいのではと断ろうとすれば、不機嫌になる。では、貰ってばかりは悪いから何か贈ろうとすればまた不機嫌になる。思春期とは難しいものである。
土方は大学を卒業すると高校の教師になった。夢だったとかではないけれど、なんとなくやりがいを感じたからだ。実家の会社に就職することも考えた。だが、兄が引継ぐし末の土方は自由にしていいと言われたのもある。
教師ともなれば休むのが難しくなる。GWも何かしら仕事があるからだ。家族には泣いて縋られたが、新米教師が「GWに連休をください」と言うには勇気がなかった。その為、三年ほど別荘に行くことは叶わなかった。
二年生の担任を持った二学期のことだ。変わった時期に転校生が来るのだという。
「高杉晋助……?」
生徒の名前はあまりに見覚えがあるものだった。とは言え同姓同名という可能性はある。しかし、添付された写真は正しくあの高杉だった。
転校生とその見た目もあってか、高杉は一瞬で学校の話題になった。周りに流されない芯の強さや、見た目は悪そうなのに、実は優しいとか。転校初日に告白された、というのは暫く伝説となってしまった。
中学時代と変わらずにモテモテの高杉は、やはり「好きな人がいる」と全て断っているという。冷たくフラれても「その一途さがいい」「実は叶わない恋をしている」と何故か人気は急上昇している。こんな話を聞いたら近藤さんは人間をやめて、ジャングルの奥地に帰ってしまうだろう。
「好きだ」
連日の告白から「高杉の想い人は誰か」に話題がシフトした頃に高杉にそう告げられた。聞き間違いかと思ったが、二人しかいない静かな数学準備室でその可能性は低い。しかも今日は五月五日で学校自体も静かである。
「え、高杉……?」
「初めて会った時からずっと好きだった」
高杉の手には一輪の花がある。花屋で買ったのだろう。かわいらしくラッピングをされている。
「気持ちは嬉しいけどよ。その、俺はお前のことは人として好きだけど、恋愛的なものは持ってねぇから応えられねぇ」
「そうか。でも」
高杉は花を置いて入り口に向かう。
「俺は諦めねぇからな」
そう言い残すと静かにドアを閉めた。
高杉の告白は思春期の一次的な気の迷いだと思っていた。だが「俺は諦めねぇからな」と宣言した通りに、高杉は一切諦めていなかった。
翌年の五月五日にも同じように告白され、卒業式の日にも告白された。土方が別の高校に異動しても、高杉が就職してもやっぱり告白は続いた。
「土方先生、この方とかどうかしら?」
三十歳も目前となると自然と見合いの話が持ちかけられるようになった。実家からも「そろそろお嫁さんを」と言われるし、学校の同僚からも紹介されてしまう。
いつもやんわりと断るのだが、なかなか相手が引いてくれない。同僚はセッティングする気満々で写真まで用意してきている。
「一途でとても良い子なのよ」
写真の女性は優しく微笑んでいる。実際はどうかは分からないが、たぶん良い子なのだろう。でも、脳裏には別の人間の顔が浮かんでいる。
「すみません。私には勿体ない方なので」
一途で良い子ならもう知っているのだ。断られても、何度も告白をしてくる相手が。普通なら嫌になりそうなのに、全くそんな気になれなかった。
スマホのアラームが鳴った。今日は約束があるのだ。自分の誕生日に仕事などやりたくないが、社会人なので仕方ない。けれど、今日はこの為に頑張ったようなものだ。
「予定があるので、これで失礼します」
テキパキと帰る支度をして職員室を後にする。次に顔を合わせた時に面倒くさそうだが、自分の人生を他人に決められたくはない。
「高杉!」
駆け足で待ち合わせ場所に向かうと、彼は既に到着していた。待ち合わせはいつも先に着いている。
手にはいつも通りに一輪の花がある。そして、会うなりこう言うのだ。
「好きだ」
「三十のおっさんでもいいのか?」
高杉の一途さにとっくに土方は好きになってしまっていたのだ。
家は少しばかり裕福で別荘と言える場所があった。ただ、毎年お決まりのパターンで正直飽きてもくる。田舎でこれといった娯楽もない。大人ばかりの集まりで子供の居場所はあまりない。子供が居るにはいるが、歳が離れすぎている。
まあ、子供が少ないということは貰える小遣いやおもちゃは多くなる。利点と言えばそれくらいだろう。小学生くらいならまだしも、中学生、高校生ともなると友達と遊びに行くほうがずっとよかった。
高校生になった頃だ。知らない子供が別荘にやってきた。体格的には小学校の一年生くらいだろうか。片目を髪で隠したなんとも生意気そうな少年だった。他の家の別荘もあるから、そこから迷いこんだのだろう サッカーボールを持ってこちらを睨んでいた。
「サッカーするか?お前もつまんねぇから飛び出したんだろ?」
少年は意外にも素直に頷いた。この少年も周りが大人だらけで、遊び相手がいないのだろう。
高校生になったら少しは大人に混じれるかと思っていたが、そうでもなかった。みんな、会社がどうとか株がどうとか、そういう話ばかりだった。
少年の名前は高杉晋助と言った。名前も話し方もしっかりしている。口調は少し乱暴でも、所作から育ちの良さが滲み出ている。
「一年生なのにしっかりしてるな」
「俺は三年生だ」
逆鱗に触れたらしく、思い切り脛を蹴られて悶絶することになる。
翌日、機嫌を損ねてやって来ないかと思っていたが普通に来た。お互いの家の大人はつまらない話ばかりだから、一日中日が暮れるまで二人で遊んでいた。
帰る前日に高杉は花を一輪持ってきた。買ってきたのではなく、その辺に咲いている花だ。最寄りのスーパーもコンビニもここから何キロも離れている。子供の力じゃとてもじゃないが難しい。(高杉の場合は普通に辿り着けそうだが)遊んで貰ったお礼だろうとありがたく受け取った。
翌年も高杉は現れた。その翌年もまた。そして高杉と一日中遊んで、最後の日に花を貰う。毎年、毎年飽きずに一途なものだと感心する。
それは大学を卒業するまで続いた。高杉も中学生になって、年の割に少し大人びてきている。顔立ちも女子が放っておかないだろう、という雰囲気だ。それなりの付き合いだから、親心というかそういう方面も気になってくる。
「好きなヤツがいるから全員断ってる」
迷惑そうに高杉は答えた。毎日のように告白されるから、とかなり辟易しているようだ。「モテたい」「お妙さんにフラれた」と毎日泣いている、近藤さんが聞いたら卒倒しそうである。
そして、高杉から花を贈られる。流石にもういいのではと断ろうとすれば、不機嫌になる。では、貰ってばかりは悪いから何か贈ろうとすればまた不機嫌になる。思春期とは難しいものである。
土方は大学を卒業すると高校の教師になった。夢だったとかではないけれど、なんとなくやりがいを感じたからだ。実家の会社に就職することも考えた。だが、兄が引継ぐし末の土方は自由にしていいと言われたのもある。
教師ともなれば休むのが難しくなる。GWも何かしら仕事があるからだ。家族には泣いて縋られたが、新米教師が「GWに連休をください」と言うには勇気がなかった。その為、三年ほど別荘に行くことは叶わなかった。
二年生の担任を持った二学期のことだ。変わった時期に転校生が来るのだという。
「高杉晋助……?」
生徒の名前はあまりに見覚えがあるものだった。とは言え同姓同名という可能性はある。しかし、添付された写真は正しくあの高杉だった。
転校生とその見た目もあってか、高杉は一瞬で学校の話題になった。周りに流されない芯の強さや、見た目は悪そうなのに、実は優しいとか。転校初日に告白された、というのは暫く伝説となってしまった。
中学時代と変わらずにモテモテの高杉は、やはり「好きな人がいる」と全て断っているという。冷たくフラれても「その一途さがいい」「実は叶わない恋をしている」と何故か人気は急上昇している。こんな話を聞いたら近藤さんは人間をやめて、ジャングルの奥地に帰ってしまうだろう。
「好きだ」
連日の告白から「高杉の想い人は誰か」に話題がシフトした頃に高杉にそう告げられた。聞き間違いかと思ったが、二人しかいない静かな数学準備室でその可能性は低い。しかも今日は五月五日で学校自体も静かである。
「え、高杉……?」
「初めて会った時からずっと好きだった」
高杉の手には一輪の花がある。花屋で買ったのだろう。かわいらしくラッピングをされている。
「気持ちは嬉しいけどよ。その、俺はお前のことは人として好きだけど、恋愛的なものは持ってねぇから応えられねぇ」
「そうか。でも」
高杉は花を置いて入り口に向かう。
「俺は諦めねぇからな」
そう言い残すと静かにドアを閉めた。
高杉の告白は思春期の一次的な気の迷いだと思っていた。だが「俺は諦めねぇからな」と宣言した通りに、高杉は一切諦めていなかった。
翌年の五月五日にも同じように告白され、卒業式の日にも告白された。土方が別の高校に異動しても、高杉が就職してもやっぱり告白は続いた。
「土方先生、この方とかどうかしら?」
三十歳も目前となると自然と見合いの話が持ちかけられるようになった。実家からも「そろそろお嫁さんを」と言われるし、学校の同僚からも紹介されてしまう。
いつもやんわりと断るのだが、なかなか相手が引いてくれない。同僚はセッティングする気満々で写真まで用意してきている。
「一途でとても良い子なのよ」
写真の女性は優しく微笑んでいる。実際はどうかは分からないが、たぶん良い子なのだろう。でも、脳裏には別の人間の顔が浮かんでいる。
「すみません。私には勿体ない方なので」
一途で良い子ならもう知っているのだ。断られても、何度も告白をしてくる相手が。普通なら嫌になりそうなのに、全くそんな気になれなかった。
スマホのアラームが鳴った。今日は約束があるのだ。自分の誕生日に仕事などやりたくないが、社会人なので仕方ない。けれど、今日はこの為に頑張ったようなものだ。
「予定があるので、これで失礼します」
テキパキと帰る支度をして職員室を後にする。次に顔を合わせた時に面倒くさそうだが、自分の人生を他人に決められたくはない。
「高杉!」
駆け足で待ち合わせ場所に向かうと、彼は既に到着していた。待ち合わせはいつも先に着いている。
手にはいつも通りに一輪の花がある。そして、会うなりこう言うのだ。
「好きだ」
「三十のおっさんでもいいのか?」
高杉の一途さにとっくに土方は好きになってしまっていたのだ。
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