土受ワンライ 終わり、始まり 花見
フローリングを拭き土方は腰に手をやった。やはり掃除道具を先に片付けてしまったのは間違いだった。気になる汚れを見付けて、つい雑巾がけなどしてしまった。
細かいと言われればそうかもしれない。だが退去費用で、余計な出費は抑えたい所だ。恋人からすれば細かいと言われよく口喧嘩になったものだ。たが、それが土方の性分なのだから仕方がない。
何もなくなった部屋はこんなに広かったのか。音もなくシン……と静まりかえっている。
数日前まではこの部屋で、笑い合い、喧嘩して、毎日騒がしい程だった。そんな思い出の詰まった部屋とも、恋人という関係も今日で終わってしまう。
管理人に鍵を返し、引っ越し業者のトラックに乗り込む。最後にもう一度、二人で過ごした部屋を見上げた。
「遅ぇ」
「あ?うっせぇな掃除してたんだよ」
「掃除なら充分やったじゃねぇか。どうせ、気になる汚れがあった、とかだろ」
新居に着くなり、玄関で待ち構えていた高杉は開口一番にそう言った。少しイラつきながら煙草をふかしている。
「ここで煙草吸ってんじゃねぇ!テメェが好き勝手にどこでも吸うから、壁のヤニ落とすの大変だったんだからな!」
「煙草ならお前も吸ってんだろうが」
「俺はベランダで吸ってたんだよ!」
乱暴に靴を脱ぐとズカズカと部屋に入った。未開封の段ボールはまだ山積みだが、二人で選んだ家具は予定通りに配置されている。
「あ〜〜疲れた」
土方は深いグリーンのソファに腰を下ろした。煙草を吸いたい気分だが、越したばかりの新居をヤニ臭くはしたくない。
「ほらよ」
高杉がマグカップを二つ持って、隣に座った。機嫌は治ったらしい。要は玄関で待つくらい、一人で寂しかったという事だ。素直に受け取って一口飲んだ。真っ先にコーヒーメーカーは開封したようだ。
「今日はヤんねぇぞ」
「チッ」
静かに腰に伸びて来た手を一瞥して言った。明日は手続きやらで朝から晩まで動くことになる。高杉も舌打ちはしたが、素直に手を引っ込めた。
「おめでとうございます」
役所で証明書を受け取った。異性のような婚姻関係は結べないが、パートナーとして公に認められたのだ。
改めて恋人という関係が終わり、パートナーとしての生活が始まった、と思うとなんだかむず痒い。高杉は相変わらず涼しい顔をしているが、繋いでいた手がさっきよりも強く握られた。
役所での手続きが終わる頃には、すっかり昼は過ぎている。それでも空腹を感じなかったのは、緊張のせいだろう。二人して役所を出た瞬間に腹が鳴ったのは笑うしかない。
今から作るのも、飲食店を探すのも面倒だった。近くにスーパーがあってよかった。総菜をあれこれ言いながら二人で選んだ。祝いだからと調子にのって、酒を買いすぎたのは失敗だったが。
「お、花見してんじゃねぇか」
部屋の窓を開けると、外に桜が咲いているのが見えた。その声にキッチンに居た高杉が隣へとやってくる。派手なものではなく、地元の住民が見に来る程度の規模である。だが、桜はいつでも美しい。
「高杉。俺たちが出会ったのも、花見だったな」
「お前まだ名前で呼べねぇのか」
「仕方ねぇだろっ!認められたからって、呼べるってもんじゃねぇんだよ!」
「しょうがねぇな十四郎は」
「うっせぇ!」
土方は誤魔化すように缶ビールを一口飲んだ。呼びたいがずっと高杉と呼んでいたし、いきなり名前はハードルが高い。
「まァ死ぬまでには呼んでくれや」
「……そりゃ死ぬまで一緒に居る、ってことか?」
「お前にしては物分かりがいいな」
「それなりに一緒に居るからな。お前のポエムも段々分かってくる」
「願わくは 花の下にて春死なむ」
「そうそう、そういう所」
土方は微笑むと高杉へと口唇を寄せた。
細かいと言われればそうかもしれない。だが退去費用で、余計な出費は抑えたい所だ。恋人からすれば細かいと言われよく口喧嘩になったものだ。たが、それが土方の性分なのだから仕方がない。
何もなくなった部屋はこんなに広かったのか。音もなくシン……と静まりかえっている。
数日前まではこの部屋で、笑い合い、喧嘩して、毎日騒がしい程だった。そんな思い出の詰まった部屋とも、恋人という関係も今日で終わってしまう。
管理人に鍵を返し、引っ越し業者のトラックに乗り込む。最後にもう一度、二人で過ごした部屋を見上げた。
「遅ぇ」
「あ?うっせぇな掃除してたんだよ」
「掃除なら充分やったじゃねぇか。どうせ、気になる汚れがあった、とかだろ」
新居に着くなり、玄関で待ち構えていた高杉は開口一番にそう言った。少しイラつきながら煙草をふかしている。
「ここで煙草吸ってんじゃねぇ!テメェが好き勝手にどこでも吸うから、壁のヤニ落とすの大変だったんだからな!」
「煙草ならお前も吸ってんだろうが」
「俺はベランダで吸ってたんだよ!」
乱暴に靴を脱ぐとズカズカと部屋に入った。未開封の段ボールはまだ山積みだが、二人で選んだ家具は予定通りに配置されている。
「あ〜〜疲れた」
土方は深いグリーンのソファに腰を下ろした。煙草を吸いたい気分だが、越したばかりの新居をヤニ臭くはしたくない。
「ほらよ」
高杉がマグカップを二つ持って、隣に座った。機嫌は治ったらしい。要は玄関で待つくらい、一人で寂しかったという事だ。素直に受け取って一口飲んだ。真っ先にコーヒーメーカーは開封したようだ。
「今日はヤんねぇぞ」
「チッ」
静かに腰に伸びて来た手を一瞥して言った。明日は手続きやらで朝から晩まで動くことになる。高杉も舌打ちはしたが、素直に手を引っ込めた。
「おめでとうございます」
役所で証明書を受け取った。異性のような婚姻関係は結べないが、パートナーとして公に認められたのだ。
改めて恋人という関係が終わり、パートナーとしての生活が始まった、と思うとなんだかむず痒い。高杉は相変わらず涼しい顔をしているが、繋いでいた手がさっきよりも強く握られた。
役所での手続きが終わる頃には、すっかり昼は過ぎている。それでも空腹を感じなかったのは、緊張のせいだろう。二人して役所を出た瞬間に腹が鳴ったのは笑うしかない。
今から作るのも、飲食店を探すのも面倒だった。近くにスーパーがあってよかった。総菜をあれこれ言いながら二人で選んだ。祝いだからと調子にのって、酒を買いすぎたのは失敗だったが。
「お、花見してんじゃねぇか」
部屋の窓を開けると、外に桜が咲いているのが見えた。その声にキッチンに居た高杉が隣へとやってくる。派手なものではなく、地元の住民が見に来る程度の規模である。だが、桜はいつでも美しい。
「高杉。俺たちが出会ったのも、花見だったな」
「お前まだ名前で呼べねぇのか」
「仕方ねぇだろっ!認められたからって、呼べるってもんじゃねぇんだよ!」
「しょうがねぇな十四郎は」
「うっせぇ!」
土方は誤魔化すように缶ビールを一口飲んだ。呼びたいがずっと高杉と呼んでいたし、いきなり名前はハードルが高い。
「まァ死ぬまでには呼んでくれや」
「……そりゃ死ぬまで一緒に居る、ってことか?」
「お前にしては物分かりがいいな」
「それなりに一緒に居るからな。お前のポエムも段々分かってくる」
「願わくは 花の下にて春死なむ」
「そうそう、そういう所」
土方は微笑むと高杉へと口唇を寄せた。
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