土受ワンライ 攘夷→土
土方は松平から宇宙旅行のチケットを貰った。溜まった有給と、たまには羽を伸ばして来いと手渡された。いらないと断ったが、すぐに撃ってくるので受けとる以外の選択肢がなかった。
最初、あまり気乗りはしなかった。だが、観光地などを調べるうちに楽しみな気持ちが大きくなった。気付けば、きっちりと準備を終えて旅行の日を待ち遠しく感じる自分が居た。
宇宙船は定刻通りに出発した。隣の席の人間はすぐに眠りにつき静かである。さらに映画には、アニキのシリーズがラインナップされている。目的地までの数時間は、快適に過ごせるとそう思っていた。
事態が一変したのは、コクピットに一番近い席に座っていたのがテロリストであった為だ。あっという間に船は乗っ取られ、スピーカーから「この船は我々が占拠した!」と聞こえてきた。土方の居るエリアにも、二人組のテロリストが侵入してきた。
船内は狭く刀は持ち込めなかった為に丸腰である。犯人の正確な人数も分からず、人質も取られている為、下手に動く事ができない。どうしたものかと考えていると、声をかけられた。
「土方。ここは協力しないか?」
「桂!?テメェしょっぴいて……!」
「それよりも、今はこの事態を解決する方が先決だ」
偶然にも桂が居合わせていた。真選組としては捕縛せねばならない。しかし、緊急事態である。攘夷戦争を生き残り、真選組の追跡を掻い潜るその実力は折り紙付きである。
「……クソッ。今だけだからな」
桂を捕まえようにも、今の状況が良くならなければどうにもならない。土方も非番である。背に腹はかえられぬと、協力を受け入れた。
手早くこのエリアのテロリストを制圧する。下っ端だったようで、少し脅すだけで簡単に情報を吐き出した。
縛って転がし、腕に覚えのある乗客に監視を頼んだ。奪った銃を向けられていては抵抗は出来ないだろう。
「ひとまず、人質を解放せねばな……女性や子供を人質に取るなど攘夷志士の風上にも置けん」
桂からは静かな怒りを感じた。世の中からテロリストと呼ばれているが、桂にはしっかりとした芯が通っている。
「そこでだ。人質の交換を交渉する」
「俺たちが人質になるってことか?」
「話が早くて助かる。……という訳で土方どちらがいい?」
桂は自分の鞄から、変装用に持っていた衣装を二着取り出した。女性用の着物とチャイナ服である。
「なんで女装すんだよ!?」
「相手は女性や子供を人質にしているのだぞ?男が人質になると言っても、断られるに決まっているだろう。それに、真選組の副長ともなれば顔も割れているかもしれん」
「つっても女装なんて……」
「なら他に策はあるのか?」
そう言われると答えに詰まる。男二人で行っても追い返されるのがオチだ。さらに、桂の言う通り土方の顔も割れている可能性は高い。
大きくスリットの入ったチャイナドレスよりも、着物の方がまだマシと渋々袖を通した。おまけに胸に詰め物と化粧まで施され、なんともいえない気分である。
「よし行くぞ、土方」
チャイナドレスを纏った桂太ももがスリットから覗く。無駄毛もなく、引き締まった太ももである。ここだけ見ればモデル顔負けである。
「どうした?いい太ももだろう」
「ドヤ顔やめろ」
何が悲しくて女装した男の太ももを、見せられねばならないのか。しかし、土方もまた女装なのである。この場に沖田が居ない事が、不幸中の幸いというやつであろう。
コクピットから、震える女性と泣いている子供が出てきた。どうやら人質になっていたが解放されたらしい。
「私たちの代わりに人質になってくれた方がいて……!」
土方たち以外にも勇敢な人間が居たらしい。女性に一番奥なら安全だと、子供と一緒に向かうように伝えた。
それでも一般人が危険な状況である事は変わらない。コクピットのドアに手をかけると、すんなりと開いてしまった。普通は鍵が掛けられているものだが、まさか掛け忘れでもしたのだろうか。
「あっはっはっはっ!大丈夫、人は何度でもやり直せるぜよ!!」
そこには正座して嗚咽を漏らすテロリストと、縛られているにも関わらず笑い声を上げる男が居た。
「お前、辰馬か!?」
「ん?もしかして、その声はヅラか?まっことべっぴんじゃったがで、誰かわからなかったぜよ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「おー!やっぱりヅラじゃ!こんな所で奇遇ぜよ!あっはっはっはっ!」
なんだこれは。緊張感の欠片もない。
「坂本さん……!俺たちは心を入れ換えて真っ当に働くよ!」
一方のテロリストは、おいおい泣いている。すっかり土方は脱力してしまった。
改心したテロリストたちから武器を取り上げる。彼らは大人しく従ったが、念のため目の届く範囲で監視となった。機長より解決した事と、宇宙船は近くの星に緊急着陸とアナウンスが入る。
「しかし、人質の交換を申し出たのがまさかお前だったとはな」
「いやぁ、話の分かる相手でよかった。誰も怪我をしておらん。ところでヅラ、隣のべっぴんさんは……?」
不意に坂本の視線が土方を向いた。見知らぬ相手からか、それとも女装しているのがおかしいのか。できれば、ジロジロと見ないで貰いたい。
「こっちは真選組の土方だ。一時的に協力してもらった。まあ、実際は必要なかったがな」
「おまんが、金時や高杉が言っておった土方か!ほんにいい面構えをしちゅう。地球という狭い場所にゃ勿体無い。どうなが、一緒に宇宙で商売しやーせんか?」
「待て辰馬!そこでなぜ銀時や高杉の名前が出てくる!?」
「何度かあったんじゃが、なんぼ粉をかけても靡いてくれんとぼやいちょったが」
「本当なのか土方!?俺というものがありながら!」
「いやまぁ、なんか変にちょっかいは……おい、俺というものがありながら、ってどういう意味だ!?」
「真選組はカスだが、お前自身の事は評価している。銀時や高杉はやめておけ。特に銀時は足が臭いし。どうだ?共に伴侶として日本の夜明けを目指さないか!」
「おまんのような男に金時や高杉は金時や高杉にゃ勿体無い。それに金時は足が臭いぜよ」
風向きが完全に変わっている。テロリストを捕縛しようとしていたはずだ。それがまるで恋愛ドラマみたいな展開になっている。
そこにけたたましく警告音が鳴り響いた。何事かと機長を見れば、困った様子でこちらを見ている。土方もだが、一番困ってるのは巻き込まれている機長に違いない。
「あの……戦艦が近付いてまして、このままでは接触する危険が……!」
「ほら!一番空気読めねぇヤツが、一番空気読んじゃいけないタイミングで、空気読んじゃったじゃん!!あのBGMが流れてんじゃん!!」
あのBGMを背に土方のツッコミが響き渡った。
※※※※※
「ぶぇっっっくしょい!!……あ~新八くん。俺もしかしてどっかで、すっげぇモテてんじゃね?銀さんカッコいい~!とか噂されてんじゃね?」
「そんなオッサンみたいなくしゃみする人間の、どこにモテ要素があるんですか。寝言は寝てから言ってください」
「そうよ銀ちゃん。銀ちゃんみたいな足の臭いマダオがモテる訳ないネ。早く目を覚ますヨロシ」
最初、あまり気乗りはしなかった。だが、観光地などを調べるうちに楽しみな気持ちが大きくなった。気付けば、きっちりと準備を終えて旅行の日を待ち遠しく感じる自分が居た。
宇宙船は定刻通りに出発した。隣の席の人間はすぐに眠りにつき静かである。さらに映画には、アニキのシリーズがラインナップされている。目的地までの数時間は、快適に過ごせるとそう思っていた。
事態が一変したのは、コクピットに一番近い席に座っていたのがテロリストであった為だ。あっという間に船は乗っ取られ、スピーカーから「この船は我々が占拠した!」と聞こえてきた。土方の居るエリアにも、二人組のテロリストが侵入してきた。
船内は狭く刀は持ち込めなかった為に丸腰である。犯人の正確な人数も分からず、人質も取られている為、下手に動く事ができない。どうしたものかと考えていると、声をかけられた。
「土方。ここは協力しないか?」
「桂!?テメェしょっぴいて……!」
「それよりも、今はこの事態を解決する方が先決だ」
偶然にも桂が居合わせていた。真選組としては捕縛せねばならない。しかし、緊急事態である。攘夷戦争を生き残り、真選組の追跡を掻い潜るその実力は折り紙付きである。
「……クソッ。今だけだからな」
桂を捕まえようにも、今の状況が良くならなければどうにもならない。土方も非番である。背に腹はかえられぬと、協力を受け入れた。
手早くこのエリアのテロリストを制圧する。下っ端だったようで、少し脅すだけで簡単に情報を吐き出した。
縛って転がし、腕に覚えのある乗客に監視を頼んだ。奪った銃を向けられていては抵抗は出来ないだろう。
「ひとまず、人質を解放せねばな……女性や子供を人質に取るなど攘夷志士の風上にも置けん」
桂からは静かな怒りを感じた。世の中からテロリストと呼ばれているが、桂にはしっかりとした芯が通っている。
「そこでだ。人質の交換を交渉する」
「俺たちが人質になるってことか?」
「話が早くて助かる。……という訳で土方どちらがいい?」
桂は自分の鞄から、変装用に持っていた衣装を二着取り出した。女性用の着物とチャイナ服である。
「なんで女装すんだよ!?」
「相手は女性や子供を人質にしているのだぞ?男が人質になると言っても、断られるに決まっているだろう。それに、真選組の副長ともなれば顔も割れているかもしれん」
「つっても女装なんて……」
「なら他に策はあるのか?」
そう言われると答えに詰まる。男二人で行っても追い返されるのがオチだ。さらに、桂の言う通り土方の顔も割れている可能性は高い。
大きくスリットの入ったチャイナドレスよりも、着物の方がまだマシと渋々袖を通した。おまけに胸に詰め物と化粧まで施され、なんともいえない気分である。
「よし行くぞ、土方」
チャイナドレスを纏った桂太ももがスリットから覗く。無駄毛もなく、引き締まった太ももである。ここだけ見ればモデル顔負けである。
「どうした?いい太ももだろう」
「ドヤ顔やめろ」
何が悲しくて女装した男の太ももを、見せられねばならないのか。しかし、土方もまた女装なのである。この場に沖田が居ない事が、不幸中の幸いというやつであろう。
コクピットから、震える女性と泣いている子供が出てきた。どうやら人質になっていたが解放されたらしい。
「私たちの代わりに人質になってくれた方がいて……!」
土方たち以外にも勇敢な人間が居たらしい。女性に一番奥なら安全だと、子供と一緒に向かうように伝えた。
それでも一般人が危険な状況である事は変わらない。コクピットのドアに手をかけると、すんなりと開いてしまった。普通は鍵が掛けられているものだが、まさか掛け忘れでもしたのだろうか。
「あっはっはっはっ!大丈夫、人は何度でもやり直せるぜよ!!」
そこには正座して嗚咽を漏らすテロリストと、縛られているにも関わらず笑い声を上げる男が居た。
「お前、辰馬か!?」
「ん?もしかして、その声はヅラか?まっことべっぴんじゃったがで、誰かわからなかったぜよ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「おー!やっぱりヅラじゃ!こんな所で奇遇ぜよ!あっはっはっはっ!」
なんだこれは。緊張感の欠片もない。
「坂本さん……!俺たちは心を入れ換えて真っ当に働くよ!」
一方のテロリストは、おいおい泣いている。すっかり土方は脱力してしまった。
改心したテロリストたちから武器を取り上げる。彼らは大人しく従ったが、念のため目の届く範囲で監視となった。機長より解決した事と、宇宙船は近くの星に緊急着陸とアナウンスが入る。
「しかし、人質の交換を申し出たのがまさかお前だったとはな」
「いやぁ、話の分かる相手でよかった。誰も怪我をしておらん。ところでヅラ、隣のべっぴんさんは……?」
不意に坂本の視線が土方を向いた。見知らぬ相手からか、それとも女装しているのがおかしいのか。できれば、ジロジロと見ないで貰いたい。
「こっちは真選組の土方だ。一時的に協力してもらった。まあ、実際は必要なかったがな」
「おまんが、金時や高杉が言っておった土方か!ほんにいい面構えをしちゅう。地球という狭い場所にゃ勿体無い。どうなが、一緒に宇宙で商売しやーせんか?」
「待て辰馬!そこでなぜ銀時や高杉の名前が出てくる!?」
「何度かあったんじゃが、なんぼ粉をかけても靡いてくれんとぼやいちょったが」
「本当なのか土方!?俺というものがありながら!」
「いやまぁ、なんか変にちょっかいは……おい、俺というものがありながら、ってどういう意味だ!?」
「真選組はカスだが、お前自身の事は評価している。銀時や高杉はやめておけ。特に銀時は足が臭いし。どうだ?共に伴侶として日本の夜明けを目指さないか!」
「おまんのような男に金時や高杉は金時や高杉にゃ勿体無い。それに金時は足が臭いぜよ」
風向きが完全に変わっている。テロリストを捕縛しようとしていたはずだ。それがまるで恋愛ドラマみたいな展開になっている。
そこにけたたましく警告音が鳴り響いた。何事かと機長を見れば、困った様子でこちらを見ている。土方もだが、一番困ってるのは巻き込まれている機長に違いない。
「あの……戦艦が近付いてまして、このままでは接触する危険が……!」
「ほら!一番空気読めねぇヤツが、一番空気読んじゃいけないタイミングで、空気読んじゃったじゃん!!あのBGMが流れてんじゃん!!」
あのBGMを背に土方のツッコミが響き渡った。
※※※※※
「ぶぇっっっくしょい!!……あ~新八くん。俺もしかしてどっかで、すっげぇモテてんじゃね?銀さんカッコいい~!とか噂されてんじゃね?」
「そんなオッサンみたいなくしゃみする人間の、どこにモテ要素があるんですか。寝言は寝てから言ってください」
「そうよ銀ちゃん。銀ちゃんみたいな足の臭いマダオがモテる訳ないネ。早く目を覚ますヨロシ」
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