土受ワンライ甘味 サブ土
「テメェ何しに来た」
「私がわざわざ顔を見に来たのに、そっけないですね。まあ、あなたに愛想は期待していないのですが」
突然の佐々木の来訪に、土方は不機嫌さを露にした。用事がある訳でもなく、アポを取っている訳でもなく本当に突然である。追い返そうとしたが、たまたま部屋を訪れた鉄が茶を用意してしまった。おまけに、佐々木は少しも気にも留めず、くくつろぎモードに入っている。
土方としては茶を飲んだらさっさと帰って欲しい。いや、茶を飲まずとも今すぐに帰って欲しい。
「いやあね、お土産に甘味を頂いたんですが生憎信女さんは別件で動いていまして。誰も一緒に食べてくれないので、こうしてあなたの所に来たという訳です」
「わざわざありがとうございました。どうぞお帰りください」
佐々木が取り出した紙袋を奪い取ろうとしたが、全く手を離す気配がない。土方はかなり力を入れているのだが、佐々木は相変わらずの鉄面皮で、眉ひとつ動いていない。
「一緒に食べようと思って来たんですから、このまま帰っては意味がないでしょう」
そう言うと佐々木は紙袋から箱を取り出す。包装紙からして高級感が漂っていた。エリートともなると、庶民的な土産など貰わないのだろう。わざわざ屯所に持ってくるなど、嫌みったらしく感じてしまう。
箱の中にはこれまた高そうな和菓子が九つ並んでいる。所謂、練り切りというやつだ。見た目だけで華やかである。
素人目で見ても確かに美しいと思う。巷にはケーキやらパフェやらが溢れかえっている。だが、こうして職人の技で、季節や花を表現するのは日の本住む人間がなせる美しさであろう。
その内のひとつを土方は手で掴んだ。それを一口で食べてしまう。鉄が用意したのは茶だけで皿までは持って来ていない。マナー違反だろうが、それで幻滅して佐々木が帰ってくれればラッキーだ。そうでなくとも、全部食べてしまえば帰るしかなくなる。
「それ、ひとつで一万円くらいしますからね。もう少し味わって食べて頂きたいのですが」
「……!?」
一万円、という言葉に思わずむせてしまった。茶を流し混むが、熱すぎて今度は別の苦しさに襲われる。
「嘘ですよ。さすがにそんな値段はしません」
「佐々木、テメェ……」
「今度はちゃんと味わってください。マナーには期待していませんが、味わうくらいはあなたにも出来るでしょう」
佐々木は持参していたらしい、銘々皿と黒文字を取り出した。あるなら最初から出して欲しいものだ。こういう所が本当に嫌いである。
「使い方は分かりますか?分からないなら、私が手取り足取り教えて差し上げましょう」
「いらねぇ!それくらい知ってんだよ!」
土方は紅葉に型どられた、練り切りに黒文字を差し入れる。口に入れると甘い味が広がる。甘過ぎず、甘い物が苦手な土方も、心から美味しいと感じた。
「それ食ったら帰れよ」
「まだ六つも残ってるんですよ。日持ちがしないんですから、食べ切るまで帰る気はありませんが」
「……テメェ本当に何しに来たんだよ」
犬猿の仲の真選組と見廻組のトップが、仲良くお茶しているなど笑えない。
「ですから、最初から言ってるでしょう。土方さん、あなたと一緒に食べたいと」
佐々木ら腹の内が読めず、神経を逆撫でするのを楽しんでいるような男だ。常日頃から信じてはいけないと思っている。だが、今の言葉は本気だと感じてしまった。同時に本気だと思いたい自分も居る。
「……おや?土方さん。耳が赤いですよ。具合が悪いなら特別に私の専属の医者を紹介してあげ」
「うるせぇ黙れ。もうしゃべんな」
皿の上の練り切りを突き刺し、佐々木の口目掛けて突っ込んでやった。
「私がわざわざ顔を見に来たのに、そっけないですね。まあ、あなたに愛想は期待していないのですが」
突然の佐々木の来訪に、土方は不機嫌さを露にした。用事がある訳でもなく、アポを取っている訳でもなく本当に突然である。追い返そうとしたが、たまたま部屋を訪れた鉄が茶を用意してしまった。おまけに、佐々木は少しも気にも留めず、くくつろぎモードに入っている。
土方としては茶を飲んだらさっさと帰って欲しい。いや、茶を飲まずとも今すぐに帰って欲しい。
「いやあね、お土産に甘味を頂いたんですが生憎信女さんは別件で動いていまして。誰も一緒に食べてくれないので、こうしてあなたの所に来たという訳です」
「わざわざありがとうございました。どうぞお帰りください」
佐々木が取り出した紙袋を奪い取ろうとしたが、全く手を離す気配がない。土方はかなり力を入れているのだが、佐々木は相変わらずの鉄面皮で、眉ひとつ動いていない。
「一緒に食べようと思って来たんですから、このまま帰っては意味がないでしょう」
そう言うと佐々木は紙袋から箱を取り出す。包装紙からして高級感が漂っていた。エリートともなると、庶民的な土産など貰わないのだろう。わざわざ屯所に持ってくるなど、嫌みったらしく感じてしまう。
箱の中にはこれまた高そうな和菓子が九つ並んでいる。所謂、練り切りというやつだ。見た目だけで華やかである。
素人目で見ても確かに美しいと思う。巷にはケーキやらパフェやらが溢れかえっている。だが、こうして職人の技で、季節や花を表現するのは日の本住む人間がなせる美しさであろう。
その内のひとつを土方は手で掴んだ。それを一口で食べてしまう。鉄が用意したのは茶だけで皿までは持って来ていない。マナー違反だろうが、それで幻滅して佐々木が帰ってくれればラッキーだ。そうでなくとも、全部食べてしまえば帰るしかなくなる。
「それ、ひとつで一万円くらいしますからね。もう少し味わって食べて頂きたいのですが」
「……!?」
一万円、という言葉に思わずむせてしまった。茶を流し混むが、熱すぎて今度は別の苦しさに襲われる。
「嘘ですよ。さすがにそんな値段はしません」
「佐々木、テメェ……」
「今度はちゃんと味わってください。マナーには期待していませんが、味わうくらいはあなたにも出来るでしょう」
佐々木は持参していたらしい、銘々皿と黒文字を取り出した。あるなら最初から出して欲しいものだ。こういう所が本当に嫌いである。
「使い方は分かりますか?分からないなら、私が手取り足取り教えて差し上げましょう」
「いらねぇ!それくらい知ってんだよ!」
土方は紅葉に型どられた、練り切りに黒文字を差し入れる。口に入れると甘い味が広がる。甘過ぎず、甘い物が苦手な土方も、心から美味しいと感じた。
「それ食ったら帰れよ」
「まだ六つも残ってるんですよ。日持ちがしないんですから、食べ切るまで帰る気はありませんが」
「……テメェ本当に何しに来たんだよ」
犬猿の仲の真選組と見廻組のトップが、仲良くお茶しているなど笑えない。
「ですから、最初から言ってるでしょう。土方さん、あなたと一緒に食べたいと」
佐々木ら腹の内が読めず、神経を逆撫でするのを楽しんでいるような男だ。常日頃から信じてはいけないと思っている。だが、今の言葉は本気だと感じてしまった。同時に本気だと思いたい自分も居る。
「……おや?土方さん。耳が赤いですよ。具合が悪いなら特別に私の専属の医者を紹介してあげ」
「うるせぇ黙れ。もうしゃべんな」
皿の上の練り切りを突き刺し、佐々木の口目掛けて突っ込んでやった。
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