土受ワンライ「好きなカプ」

 背中に重みを感じる。暇を持て余した高杉が、背中合わせに土方に体重を預けているからだ。土方の私邸ではあるが、気が緩み過ぎではないだろうか。
「テメェ、邪魔すんなら帰れ」
「せっかく好いた相手に会いに来てんのに、帰るバカがどこにいるってんだ?」
 イラつく土方をよそに、高杉はどこ吹く風。文句を言われても飄々と返していく。相手をしても仕方ない。土方も分かっているが、性分なのかつい構ってしまう。構われたい高杉の思う壺だと薄々分かっていてもだ。
「そういやァ、少し前にウチのやつらが世話になったみてぇだなァ」
「あァ?そういやそんな事もあったな。なんだ仇討ちでもしようってのか」
「そんな趣味はねェ。お前の尋問、なかなかいいらしいじゃねぇか。ひとつ、俺もやって貰おうかと思ってなァ?」
「……テメェ、何考えてやがる」
 どう考えても裏がある。尋問を受けたいなんて言い出す筈がないのだ。
「今なら、特別になんでも洗いざらい吐いてやらァ」 
 クツクツと高杉が笑う。怪しいが「なんでも洗い材に」という言葉に惹かれるものがある。
 鬼兵隊の下っ端には大した情報はなかった。そもそも、鬼兵隊と勝手に名乗っていただけの浪士崩れでしかなかった。
 無駄に根性と肝が座っていて、費やした時間も費用も返ってはきやしない。なんの成果もなかった事で、上からは文句を言われた。押し付けてきたのはそちらだというのに。
「本当にか……?」
「あァ……ただし答えるのはお前の好きな所だけだ」
「……は?」
 何を言い出すのだろうか。頭のネジがぶっ飛んでしまったのか。いや、この男は数本ぶっ飛んでいてもおかしくはない。
「さぁ、やってくれよ鬼の副長さん」
「誰がやるか!!」
「……そりゃあ残念だ。俺ァお前のことが好きでたまらねぇのになァ」
「だ、誰がだ!!お前もうこれ以上喋んな!!顔寄せんじゃねぇ!!」
「そういう所も好きだぜ、俺は」
「お、俺はお前なんか嫌いだ!!」
「本当にか……?」
 高杉の顔が間近にある。さっきまでふざけたような雰囲気であったのに、その空気が一気に変わった。目は真っ直ぐに土方を射貫く。真実しか口にしてはならない、と有無を言わさぬものがあった。
 土方は高杉のこういう所に弱い。遊ばれて翻弄され、面白がっていると知っているのに抗えない。敵対しているというのに、なぜ土方を選んだのか。今もそれが分からない。だが、自分自身も気づけば高杉を選んでしまっていた。
「……お前の事は嫌いだが……お前と居る時間は嫌いじゃねぇ……」
 ギリギリの限界まで譲歩した。どうしたって素直にはなれない。自身の気持ちさえ、ハッキリと分かってもいない。今の土方が言えるのはここまでだ。
「まァ、及第点って所か」
「ん゛ッーーーーーー!?急に口吸いすんじゃねぇ!?」
「ちゃんと言えたご褒美だったんだが……気に入らなかったか?」
「入らねぇ!!やっぱり、テメェは帰れ!!」
「帰らねぇ。とりあえず寝るから終わったら起こせ」
 土方の怒鳴り声が聞こえていないのか、高杉からは寝息が聞こえてきた。かわりに土方からはため息がひとつ。諦めて文机に向かおうとしてやめた。
 何かしらかけてやらないと風邪でも引いてしまうかもしれない。風邪を引いてくれた方が大人しくていいのだが、どうしても放っておけない。
「……そういう所も好きだぜ」
「テメェ、狸寝入りか……!」
 ニヤリと笑う高杉と目が合った。弄ばれているのに、どうしてもこの男の事を土方は嫌いになれない。
 

 
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