甘やかす話(高土)
玄関にきちんと揃えられた草履があった。家主が帰っているという証拠だ。その割に家の中は静かだ。奥に寝室と浴室がある。そこに居るなら多少の静けさがあってもおかしくはない。だが、まだ日は高い。まあ昼寝という事も考えられるが。
高杉は遠慮なく中へ入った。居間も浴室にも目もくれず、真っ直ぐ寝室を目指して襖を開ける。そこは予想通りに誰もいない。
「またやってんのか」
高杉はため息を吐いた。だが面倒だとか呆れてあるとかそういう類いではない。仕方ねぇなとかそういう照れや嬉しさを誤魔化す為だ。
押し入れから少しだけ布団がはみ出ている。静かに開けるとそこには布団にくるまって眠っている土方が居た。
気持ち良さそうにスヤスヤと眠っている。テレビで見るような眉間の皺もない。真選組の最大の敵とも言える鬼兵隊の頭目に、無防備な寝姿を晒している。
身体を丸めて眠る様は子供のようだ。事実そうなのだ。疲れて弱ると土方は少々子供帰りする帰来がある。押し入れで眠るのは落ち着くのもあるようだが、隠れんぼのような物だ。自分を探して見つけて欲しい、構って欲しい。そうしてワザと布団の端を出してみたりして、見付かるように仕向けている。
頭を優しく撫でてやる。それでもまだ起きてはこない。まるで母親になったような感覚だ。そもそも、土方とは所謂情人という関係だ。こんな手の掛かる子を持った覚えはない。
しかし、悪い気はしない。甘えられるの嫌いじゃない。ドロドロに甘やかして、自分ナシでは生きられないようにしてやりたい。お互いに依存傾向が強い。その自覚が土方にあるかどうかは分からないが。
これは高杉の特権だと思っている。人を甘やかすのが上手い、どこかの銀髪も頑張っているらしい。けれど、もう土方は高杉の手の中にいる。悔しがる顔を見てみたいが、ずっと秘密にしておきたいとも思う。こんな風にどこかに閉じ込めてしまいたい。
「そろそろ起きろ。テメェのやり口は分かってんだよ」
「……ふふっ」
狸寝入りも土方の得意分野だ。他人の気配で目覚めなければ、副長なんて務まらない。満足そうに笑う目元には少し濃いめの隈がある。
押し入れから引っ張り出して目元に口唇を落とす。土方はそれを受け入れて、くすぐったそうに身をよじる。
土方の居なくなった押し入れには、布団とマヨネーズ、DVDやらとにかく土方の気に入った物が沢山散らばっている。その中には高杉が買ってきた物もあった。
押し入れは謂わば土方の秘密基地で逃げ場所だ。全ての物から遮断できる唯一の場所。幼少の頃、悲しい事、辛い事がある度に義兄の使う押し入れに逃げ込んだ。だからここは土方にとっての安全地帯。そして、その天岩戸を開けられるのは今はこの世で高杉ただ一人。
高杉の口づけに答えるように、土方は抱き付く力を強くする。「テディベアじゃねぇ」と思っても土方の気が済むまで好きなようにさせる。ストレスが爆発して、土方が土方でなくなってしまったらその方が余程恐ろしい。
ストレスの元のテロリストが、副長のストレス緩和に役立つなんて笑ってしまいそうだ。銀髪の悔しそうな顔が目に浮かぶ。
「どうした……?」
「いや、ちょっとな」
どうも笑い声が漏れていたらしい。土方の目が不安そうに揺れる。本当に小さな子供のようだ。
「もう少し寝るか?」
「うん」
コクンと頷いた。安心したのと、疲労もあって目蓋が下りかけている。
押し入れに残っていた布団と土方のお気に入りをかき集め、一緒にゴロンと畳に横になる。高杉よりも土方の方が少し背が高いのに、なぜか胸にすっぽりと収まった。
「たかすぎ」
「うん?」
「やっぱいい。おきたらいう」
「そうかい。心配しなくても勝手に居なくならねぇさ」
「うん」
その背を優しくを撫でてやると、土方の目蓋は完全に下りきった。やがて穏やかな寝息が聞こえてきた頃、高杉も目を閉じた。
高杉は遠慮なく中へ入った。居間も浴室にも目もくれず、真っ直ぐ寝室を目指して襖を開ける。そこは予想通りに誰もいない。
「またやってんのか」
高杉はため息を吐いた。だが面倒だとか呆れてあるとかそういう類いではない。仕方ねぇなとかそういう照れや嬉しさを誤魔化す為だ。
押し入れから少しだけ布団がはみ出ている。静かに開けるとそこには布団にくるまって眠っている土方が居た。
気持ち良さそうにスヤスヤと眠っている。テレビで見るような眉間の皺もない。真選組の最大の敵とも言える鬼兵隊の頭目に、無防備な寝姿を晒している。
身体を丸めて眠る様は子供のようだ。事実そうなのだ。疲れて弱ると土方は少々子供帰りする帰来がある。押し入れで眠るのは落ち着くのもあるようだが、隠れんぼのような物だ。自分を探して見つけて欲しい、構って欲しい。そうしてワザと布団の端を出してみたりして、見付かるように仕向けている。
頭を優しく撫でてやる。それでもまだ起きてはこない。まるで母親になったような感覚だ。そもそも、土方とは所謂情人という関係だ。こんな手の掛かる子を持った覚えはない。
しかし、悪い気はしない。甘えられるの嫌いじゃない。ドロドロに甘やかして、自分ナシでは生きられないようにしてやりたい。お互いに依存傾向が強い。その自覚が土方にあるかどうかは分からないが。
これは高杉の特権だと思っている。人を甘やかすのが上手い、どこかの銀髪も頑張っているらしい。けれど、もう土方は高杉の手の中にいる。悔しがる顔を見てみたいが、ずっと秘密にしておきたいとも思う。こんな風にどこかに閉じ込めてしまいたい。
「そろそろ起きろ。テメェのやり口は分かってんだよ」
「……ふふっ」
狸寝入りも土方の得意分野だ。他人の気配で目覚めなければ、副長なんて務まらない。満足そうに笑う目元には少し濃いめの隈がある。
押し入れから引っ張り出して目元に口唇を落とす。土方はそれを受け入れて、くすぐったそうに身をよじる。
土方の居なくなった押し入れには、布団とマヨネーズ、DVDやらとにかく土方の気に入った物が沢山散らばっている。その中には高杉が買ってきた物もあった。
押し入れは謂わば土方の秘密基地で逃げ場所だ。全ての物から遮断できる唯一の場所。幼少の頃、悲しい事、辛い事がある度に義兄の使う押し入れに逃げ込んだ。だからここは土方にとっての安全地帯。そして、その天岩戸を開けられるのは今はこの世で高杉ただ一人。
高杉の口づけに答えるように、土方は抱き付く力を強くする。「テディベアじゃねぇ」と思っても土方の気が済むまで好きなようにさせる。ストレスが爆発して、土方が土方でなくなってしまったらその方が余程恐ろしい。
ストレスの元のテロリストが、副長のストレス緩和に役立つなんて笑ってしまいそうだ。銀髪の悔しそうな顔が目に浮かぶ。
「どうした……?」
「いや、ちょっとな」
どうも笑い声が漏れていたらしい。土方の目が不安そうに揺れる。本当に小さな子供のようだ。
「もう少し寝るか?」
「うん」
コクンと頷いた。安心したのと、疲労もあって目蓋が下りかけている。
押し入れに残っていた布団と土方のお気に入りをかき集め、一緒にゴロンと畳に横になる。高杉よりも土方の方が少し背が高いのに、なぜか胸にすっぽりと収まった。
「たかすぎ」
「うん?」
「やっぱいい。おきたらいう」
「そうかい。心配しなくても勝手に居なくならねぇさ」
「うん」
その背を優しくを撫でてやると、土方の目蓋は完全に下りきった。やがて穏やかな寝息が聞こえてきた頃、高杉も目を閉じた。
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