デビュー(高土)

「デビューが決まったぞ」
「え?なんて??」
 
 大学に入学したものの、講義を受けるでもなく、バイトに明け暮れるでもなく怠惰に過ごしていた。そんな折りに、パチンコ屋で銀時と知り合った。反発も多いが、何故か馬が合いなんとなくつるむようになった。
 そんなある日、オススメのAVがあると言って俺のスマホで勝手に動画を買われた。「ふざけるな」とキレつつ動画のページを開くと女優のツラはいい。キレイな黒髪のショートヘアーに切れ長の目。気の強そうな雰囲気に屈服させたくなる。そして肝心の胸が………ない。
 爆笑する銀時に「ふざけるな」と今度は一発殴った。そう、確かにAVではあるのだが男同士なのである。
 殴るだけでは気が済まない。パチンコで勝ったと自慢してきた銀時の財布から、三万を迷惑料として貰っておいた。
 夜。眠ろうとベッドに入ったのだが、昼間に見た女優―――この場合は男優か。あのツラが頭から離れない。どうしても気になり動画アプリを開く。履歴の一番上には例のAVのタイトルがある。
「土方十四郎……」
 そのやたらツラのいい男優の名を気づかぬ内に呟いていた。
 その日以来、土方の出演作品を片っ端から購入した。デビュー作から最新作まで全て。
 そしていつしか、土方を抱きたいという気持ちが抑えられなくなった。だが、ツテなんてないし、どこに住んでるかも、名前だって芸名かもしれない。何も分からない俺にはどうする事も出来ない。
 だが、そこで閃いた。同じ土俵に立てばいいのだ。土方の所属するレーベルにアクセスするとそこには「男優募集」の文字が。迷いなくそこに書かれた番号に電話をかけた。

「なかなか面白ぇ坊主じゃねぇか!」
 社長である松平は、ヤクザのような見た目であった。だが、そんな事で怯むような俺ではない。
 志望動機で「土方を抱きたい」と言ったら「面白ぇ!」と一発採用。
 すぐさまデビュー作の話が上がったが、相手は興味のない名も知らない男優ばかり。
「土方じゃないなら出ない」
 と全て断った。
 我儘だとか、調子に乗っているだとか散々言われたがついにチャンスは巡ってきた。
「なぁ、とっつぁん。デビュー作で俺を抱きたいって言う大物の新人が居るんだって?」
 目の前には、映像で何度も見た土方が立っている。
「俺のデビュー作はアンタ以外は認めねぇ。いや、この先アンタを抱いていいのは俺だけだ」
「ははっ!上等!」
 土方の口唇がニヤリと弧を描いた。
1/1ページ
    スキ