ハロウィン(高土)
「十四郎!そっちは危ねぇからフラフラすんじゃねぇ!」
「あ?あぁ~?う~?」
人間が居る方に歩き出そうとする十四郎の肩を掴み引き寄せる。バレていないかと建物の影から覗きこむ。そこに居た人間はこちらを気にする様子もなく、歩き去っていった。十四郎は買い物に入っていたマヨネーズに反応してしまったらしい。
腹が空いていたのか、よだれを垂らしながら土方は高杉の腕を噛む。不死者となってから高杉の痛覚はない。あったとしても、殆ど筋力のない土方が噛みついても甘噛み程度である。
土方にフードを深く被らせると、人通りの少ない裏通りへと入っていく。まだ人の形に近い怪物といえど、バレてしまえばハンターが来る。ヤツらは害のない怪物でも容赦なく首を切る。
手頃な廃屋に身を隠す。ここで夜まで凌ぎ、隙を見て食料を調達に出かける。夜は人間が少ないが、その代わりにハンターが巡回をしている。昼も夜も危険には代わりない。だが、まだ夜の方が動きやすくはある。
「十四郎。夜までマヨネーズは待て」
「あ~」
土方は高杉をじっと見た後にコクンと頷いた。頷いているが、理解はしていない。高杉もその事を理解しているが、一応伝えている。稀に土方の意識が一瞬だけ戻る事がある。植物状態の人間に根気よく話しかけていたら目が覚めた。そういう事もある。それが、死者である自分たちにも通用するかは分からないが。
高杉も土方も一度死んでいる。高杉は皮膚にツギハギがあるが、意識も思考力もしっかりと残っている。上手く隠せば人間と全く変わらない。
だが、土方はゾンビだ。思考力はなくただ空腹を満たそうとさ迷い続ける。幸せ不幸か土方は人肉ではなく、マヨネーズを求めるゾンビになった。生前からマヨネーズを異常に摂取していたが、死んでもそれが作用するとは思わなかった。
土方がこうなったのは、全てはあのヤブ医者ドクター坂田のせいである。「だいじょーぶ、だいじょーぶ」と1ミリ足りとも信用できない言葉と風貌。高杉が冷静であれば、確実に断っていた。
しかし、瀕死の土方を抱えようやく見つけた医者に縋る他になかった。瀕死になった理由も高杉を追ってきたせいである。その時には既に高杉は不死者になっていた。だが、土方はそれを知らない。もっと早く伝えていればこうならなかった。後悔と焦りが高杉の判断を鈍らせてしまった。
そうして土方はゾンビとして蘇った。思考力のないマヨネーズしか覚えていないゾンビに。
それでもこうして土方と一緒に居られる事は嬉しかった。高杉のやるべき事は決まった。まず、自分を不死者にしてくれたドクター松陽を探す事。次にドクター坂田をボコボコにする事だ。
ドクター松陽は天才だった。だが、それ故に世界中から狙われている。権力者は不老不死を求め、戦争が大好きだ。
それを恐れて松陽は身を隠した。逃亡中の彼に偶然にも出会い救われた事は幸運だった。
一方のドクター坂田は借金取から逃げ回っているらしい。行く先々で悪い噂を聞く事となった。
同じ医者でも天と地ほどの差だ。坂田は免許があるかも怪しい。詐欺師の方が余程しっくり来る。
「もうすぐ夜が来る」
廃屋の壊れた窓から日が沈んでいくのが見えた。血のように真っ赤な空が夜の訪れを告げていた。
「あ?あぁ~?う~?」
人間が居る方に歩き出そうとする十四郎の肩を掴み引き寄せる。バレていないかと建物の影から覗きこむ。そこに居た人間はこちらを気にする様子もなく、歩き去っていった。十四郎は買い物に入っていたマヨネーズに反応してしまったらしい。
腹が空いていたのか、よだれを垂らしながら土方は高杉の腕を噛む。不死者となってから高杉の痛覚はない。あったとしても、殆ど筋力のない土方が噛みついても甘噛み程度である。
土方にフードを深く被らせると、人通りの少ない裏通りへと入っていく。まだ人の形に近い怪物といえど、バレてしまえばハンターが来る。ヤツらは害のない怪物でも容赦なく首を切る。
手頃な廃屋に身を隠す。ここで夜まで凌ぎ、隙を見て食料を調達に出かける。夜は人間が少ないが、その代わりにハンターが巡回をしている。昼も夜も危険には代わりない。だが、まだ夜の方が動きやすくはある。
「十四郎。夜までマヨネーズは待て」
「あ~」
土方は高杉をじっと見た後にコクンと頷いた。頷いているが、理解はしていない。高杉もその事を理解しているが、一応伝えている。稀に土方の意識が一瞬だけ戻る事がある。植物状態の人間に根気よく話しかけていたら目が覚めた。そういう事もある。それが、死者である自分たちにも通用するかは分からないが。
高杉も土方も一度死んでいる。高杉は皮膚にツギハギがあるが、意識も思考力もしっかりと残っている。上手く隠せば人間と全く変わらない。
だが、土方はゾンビだ。思考力はなくただ空腹を満たそうとさ迷い続ける。幸せ不幸か土方は人肉ではなく、マヨネーズを求めるゾンビになった。生前からマヨネーズを異常に摂取していたが、死んでもそれが作用するとは思わなかった。
土方がこうなったのは、全てはあのヤブ医者ドクター坂田のせいである。「だいじょーぶ、だいじょーぶ」と1ミリ足りとも信用できない言葉と風貌。高杉が冷静であれば、確実に断っていた。
しかし、瀕死の土方を抱えようやく見つけた医者に縋る他になかった。瀕死になった理由も高杉を追ってきたせいである。その時には既に高杉は不死者になっていた。だが、土方はそれを知らない。もっと早く伝えていればこうならなかった。後悔と焦りが高杉の判断を鈍らせてしまった。
そうして土方はゾンビとして蘇った。思考力のないマヨネーズしか覚えていないゾンビに。
それでもこうして土方と一緒に居られる事は嬉しかった。高杉のやるべき事は決まった。まず、自分を不死者にしてくれたドクター松陽を探す事。次にドクター坂田をボコボコにする事だ。
ドクター松陽は天才だった。だが、それ故に世界中から狙われている。権力者は不老不死を求め、戦争が大好きだ。
それを恐れて松陽は身を隠した。逃亡中の彼に偶然にも出会い救われた事は幸運だった。
一方のドクター坂田は借金取から逃げ回っているらしい。行く先々で悪い噂を聞く事となった。
同じ医者でも天と地ほどの差だ。坂田は免許があるかも怪しい。詐欺師の方が余程しっくり来る。
「もうすぐ夜が来る」
廃屋の壊れた窓から日が沈んでいくのが見えた。血のように真っ赤な空が夜の訪れを告げていた。
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