ラビューラビュー(高土)
目の前の年下の恋人は先ほど観た映画の感想を話続けている。止まる様子はなく、あのセリフがあの場面がと次々に溢れ出ている。それを見ながら飲むブラックコーヒーはなんだか甘く感じた。
育ち盛りの高校生らしく大きなハンバーガーをペロリと平らげた。今は息継ぎの合間にコーラと冷めてしまったポテトを摘まんでいる。
映画は元々好きだが任侠映画は初めてだった。普段はアクションやSFなどが多い。とはいえ、可愛い恋人のお願いとあらば聞かない訳にはいかない。初日の初回に座席を予約して、パンフレットといくつかグッズもプレゼントした。
遠慮がちなのは毎回の事だが、高校生と社会人。職業柄、金は使いきれない程に持っている。とはいえ、本人が気にするのであまりに高価なプレゼントや食事は控えている。そもそも、土方はブランドや高級レストランには興味がない。見た目よりも機能性。ファミレスみたいに気軽に入って好きな物を食べる方がいいのだ。
土方は以外にもお喋り、というか好きな物に対してはよく喋る方だった。飽きる事なくアニキについて話している。夢中になる姿は可愛くもあり、嫉妬心もありなのだが。
「アニキのような漢になりたい」と憧れているようだが、映画の中の彼は寡黙で背中で語るような漢だった。彼はユーモアは持ち合わせいたが、目の前の土方のようにお喋りとは程遠い。
「ん?どうした?」
見詰める視線に気付いたのか土方が不思議そうに聞いた。
「いいや。見てて飽きねぇなァと思っただけだ」
「それ、褒めてんのか?」
「飽きねぇ、ってのはずっと好きって事じゃねぇか」
「ああ、マヨネーズみたいな」
なんとなく同意しかねるが、土方は納得したらしい。アニキと並んで、いやそれ以上にマヨネーズが大好物だ。食べ物であれば何にだってかけるし、そのまま食べている事もある。今は若いから良くても、将来的に身体を悪くするのではないかと心配もある。
「そろそろ行くか?」
「行く!!」
高杉は外していたサングラスをかけた。土方は僅かに残ったポテトをコーラで流しこむ。少し乾き始めたウェットティッシュで手を拭くと、ゴミを一つにまとめてトレーに乗せる。トレーを返却する時にまで声をかけるのだから、育ちの良さが出ている。
自然と空いた手が繋がる。今は何の抵抗もない。時折、チラチラと見てきたりする人間は居るが、意外にも気にしていない人間の方が多い。
抵抗感があったのは、高杉の方だ。手を繋ぐ事に躊躇いがなかったのは土方の方。
「好きなんだから、普通なんじゃねぇの?」
とごく当たり前ように言われてしまった。
同性を好きになるとは考えてもいなかった。一方の土方は同性を好きになる事が普通だった。
世間から見れば、異性で惹かれ合うのが普通である。土方を好きになるまでは、高杉の恋愛対象も女性だった。
土方は幼い頃に両親を失くし、親戚中を転々とした後に義兄夫婦に引き取られた。切っ掛けはない。恐らく最初から恋愛対象が異性でなく、同性だった。
一方で高杉は両親は健在で裕福な家庭に生まれた。何不自由なく暮らし、名前すら覚えてないが何人か彼女も居た。
ここだけを切り取れば、土方は特殊な環境で育ち高杉はごく普通の環境で育った。
だが、蓋を開けてみればどうだ。土方は義兄夫婦に愛情たっぷりに育てられ、曲がる事なく真っ直ぐに育った。良い友人にも恵まれて毎日楽しいと言う。少々悪食ではあるが、そこを除けばごく普通の少年だ。
それに対して高杉は両親からの愛情はなく、反抗して見事に曲がった。両親から期待されていた、良い大学はすぐ自主退学し良い会社にも入らず自由気ままにホストを選んだ。自身は別に悪いとは思わなかったが、両親の評判は最悪ですぐに勘当を告げられた。
高杉にとって土方は魅力的だった。見た目も好みだったが、それ以上に中身に惹かれた。自分が持っていない物を持っている。それが眩しくて欲しいと願ってしまった。
土方も当初は戸惑い、自分は普通でないのだと思った。周りの男子はグラビアやアイドルに興味がある。しかし、土方が性的に魅力を感じるのはいつも男性だった。それが憧れではなく、恋慕の感情だとゆっくりとだが理解してしまった。自分が普通でないと知ってしまった。
「義兄さんたちは、家の外でも中でもずっとイチャイチャしてたから、それが普通で皆そんなモンだと思ってた」
一緒になって十年以上経っても中睦まじく、新婚のようだと。この感じならシワシワになった頃もずっとイチャイチャしているに違いない、と土方は言った。
だから、相手への愛情表現に躊躇いがない。夫婦間の愛情と同じくらい土方への愛情を注いだ。相手に感謝や愛情をちゃんと伝えた。それはごく当たり前の事なのだと、自然と学んでいた。親戚を転々としていた時は、幼すぎて記憶があまりなかった事も幸いしたのかもしれない。
土方が悩んで打ち明けた時、ただ普通に接してくれた。過剰に反応するでもなく、腫れ物のように扱う訳でもない。ありのままの土方を受け入れてくれた。「好きな人が出来たら連れてきてね」と言われ、付き合い始めてすぐ土方の実家に行く事になったのはいい思い出である。
少し世間からズレているような気がする土方だが、彼なりに高杉を一生懸命に好きだという事を伝えている。勿論、ズレているのは食の好みだとかそういう事である。
だから、自然と高杉は外でも手を繋ぐ事を受け入れた。ごく当たり前の愛情表現だからだ。サングラスは顔を隠す為でなく、目が普通の人よりも弱いからだ。何人かの姫たちにはもうバレているし、別に隠そうとは思わない。土方をホストにしようとする動きを阻止するだけだ。
キスもした。土方は未成年だからその先はまだ。成人まであと一年はある。法律が変わって良かったと思ったのは初めてだった。だが、それまで己の我慢が効くかは少々不安であるが。
土方はスマホを操作している。画面にはこれから行くアニキ展の内容が表示され真剣に見詰めていた。
「十四郎」
「ん?……だから急にキスすんのやめろって」
「好きなんだから仕方ねぇだろ」
愛情表現して何が悪い。土方ももう慣れきっている。逆にしないと寂しそうにするくらいだ。
「アニキと俺どっちが好きなんだよ」
「晋助さんて本当にホストなのかよ」
「俺の写真のトラック走ってるの見た事あるだろ?」
「次は"俺と学校どっちが大事なの?"とか聞いてきそうだな」
くだらないじゃれ合いすら愛しい時間。笑ってまた口唇に触れて、指を深く絡める。
誰かを愛しいと思わせてくれて、ありがとう。
育ち盛りの高校生らしく大きなハンバーガーをペロリと平らげた。今は息継ぎの合間にコーラと冷めてしまったポテトを摘まんでいる。
映画は元々好きだが任侠映画は初めてだった。普段はアクションやSFなどが多い。とはいえ、可愛い恋人のお願いとあらば聞かない訳にはいかない。初日の初回に座席を予約して、パンフレットといくつかグッズもプレゼントした。
遠慮がちなのは毎回の事だが、高校生と社会人。職業柄、金は使いきれない程に持っている。とはいえ、本人が気にするのであまりに高価なプレゼントや食事は控えている。そもそも、土方はブランドや高級レストランには興味がない。見た目よりも機能性。ファミレスみたいに気軽に入って好きな物を食べる方がいいのだ。
土方は以外にもお喋り、というか好きな物に対してはよく喋る方だった。飽きる事なくアニキについて話している。夢中になる姿は可愛くもあり、嫉妬心もありなのだが。
「アニキのような漢になりたい」と憧れているようだが、映画の中の彼は寡黙で背中で語るような漢だった。彼はユーモアは持ち合わせいたが、目の前の土方のようにお喋りとは程遠い。
「ん?どうした?」
見詰める視線に気付いたのか土方が不思議そうに聞いた。
「いいや。見てて飽きねぇなァと思っただけだ」
「それ、褒めてんのか?」
「飽きねぇ、ってのはずっと好きって事じゃねぇか」
「ああ、マヨネーズみたいな」
なんとなく同意しかねるが、土方は納得したらしい。アニキと並んで、いやそれ以上にマヨネーズが大好物だ。食べ物であれば何にだってかけるし、そのまま食べている事もある。今は若いから良くても、将来的に身体を悪くするのではないかと心配もある。
「そろそろ行くか?」
「行く!!」
高杉は外していたサングラスをかけた。土方は僅かに残ったポテトをコーラで流しこむ。少し乾き始めたウェットティッシュで手を拭くと、ゴミを一つにまとめてトレーに乗せる。トレーを返却する時にまで声をかけるのだから、育ちの良さが出ている。
自然と空いた手が繋がる。今は何の抵抗もない。時折、チラチラと見てきたりする人間は居るが、意外にも気にしていない人間の方が多い。
抵抗感があったのは、高杉の方だ。手を繋ぐ事に躊躇いがなかったのは土方の方。
「好きなんだから、普通なんじゃねぇの?」
とごく当たり前ように言われてしまった。
同性を好きになるとは考えてもいなかった。一方の土方は同性を好きになる事が普通だった。
世間から見れば、異性で惹かれ合うのが普通である。土方を好きになるまでは、高杉の恋愛対象も女性だった。
土方は幼い頃に両親を失くし、親戚中を転々とした後に義兄夫婦に引き取られた。切っ掛けはない。恐らく最初から恋愛対象が異性でなく、同性だった。
一方で高杉は両親は健在で裕福な家庭に生まれた。何不自由なく暮らし、名前すら覚えてないが何人か彼女も居た。
ここだけを切り取れば、土方は特殊な環境で育ち高杉はごく普通の環境で育った。
だが、蓋を開けてみればどうだ。土方は義兄夫婦に愛情たっぷりに育てられ、曲がる事なく真っ直ぐに育った。良い友人にも恵まれて毎日楽しいと言う。少々悪食ではあるが、そこを除けばごく普通の少年だ。
それに対して高杉は両親からの愛情はなく、反抗して見事に曲がった。両親から期待されていた、良い大学はすぐ自主退学し良い会社にも入らず自由気ままにホストを選んだ。自身は別に悪いとは思わなかったが、両親の評判は最悪ですぐに勘当を告げられた。
高杉にとって土方は魅力的だった。見た目も好みだったが、それ以上に中身に惹かれた。自分が持っていない物を持っている。それが眩しくて欲しいと願ってしまった。
土方も当初は戸惑い、自分は普通でないのだと思った。周りの男子はグラビアやアイドルに興味がある。しかし、土方が性的に魅力を感じるのはいつも男性だった。それが憧れではなく、恋慕の感情だとゆっくりとだが理解してしまった。自分が普通でないと知ってしまった。
「義兄さんたちは、家の外でも中でもずっとイチャイチャしてたから、それが普通で皆そんなモンだと思ってた」
一緒になって十年以上経っても中睦まじく、新婚のようだと。この感じならシワシワになった頃もずっとイチャイチャしているに違いない、と土方は言った。
だから、相手への愛情表現に躊躇いがない。夫婦間の愛情と同じくらい土方への愛情を注いだ。相手に感謝や愛情をちゃんと伝えた。それはごく当たり前の事なのだと、自然と学んでいた。親戚を転々としていた時は、幼すぎて記憶があまりなかった事も幸いしたのかもしれない。
土方が悩んで打ち明けた時、ただ普通に接してくれた。過剰に反応するでもなく、腫れ物のように扱う訳でもない。ありのままの土方を受け入れてくれた。「好きな人が出来たら連れてきてね」と言われ、付き合い始めてすぐ土方の実家に行く事になったのはいい思い出である。
少し世間からズレているような気がする土方だが、彼なりに高杉を一生懸命に好きだという事を伝えている。勿論、ズレているのは食の好みだとかそういう事である。
だから、自然と高杉は外でも手を繋ぐ事を受け入れた。ごく当たり前の愛情表現だからだ。サングラスは顔を隠す為でなく、目が普通の人よりも弱いからだ。何人かの姫たちにはもうバレているし、別に隠そうとは思わない。土方をホストにしようとする動きを阻止するだけだ。
キスもした。土方は未成年だからその先はまだ。成人まであと一年はある。法律が変わって良かったと思ったのは初めてだった。だが、それまで己の我慢が効くかは少々不安であるが。
土方はスマホを操作している。画面にはこれから行くアニキ展の内容が表示され真剣に見詰めていた。
「十四郎」
「ん?……だから急にキスすんのやめろって」
「好きなんだから仕方ねぇだろ」
愛情表現して何が悪い。土方ももう慣れきっている。逆にしないと寂しそうにするくらいだ。
「アニキと俺どっちが好きなんだよ」
「晋助さんて本当にホストなのかよ」
「俺の写真のトラック走ってるの見た事あるだろ?」
「次は"俺と学校どっちが大事なの?"とか聞いてきそうだな」
くだらないじゃれ合いすら愛しい時間。笑ってまた口唇に触れて、指を深く絡める。
誰かを愛しいと思わせてくれて、ありがとう。
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