W副長(銀土)

「今日から入隊しました田中です!宜しくお願いします!!」

俺の名前は田中 一郎。今日、憧れの真選組に入隊になった。
世間ではチンピラだの言われる真選組は、俺にとっては江戸を守るヒーローなのだ。

拍手がおこり自分も迎え入れられたのだなと感じる。
近藤局長に叩かれた背中が痛いが嬉しくもある。
その隣の土方副長はクールで出来る男、といった感じだ。
しかし、副長はもう1人居たはずなのだが、その席には誰もいない。
入隊試験の時にも見かけなかった。
銀髪で天パという目立つ容姿をしているので、知らない訳ではないがやはり気になる。もしかしたら、特別な任務に付いていて今はいないのだろうか。

「ふぁ〜あ。おはよーございまーす」

そんな妄想に興奮していたら、障子が開き欠伸をしながら坂田副長が現れた。
眠そうなのは今まで任務に付かれていて、徹夜していたに違いない!それなのに来ていただけるなんて!と感動を覚えたのもつかの間。

「坂田ああああ!!テメェ何度言やぁ分かるんだ!?毎回毎回、寝坊しやがって!!」
「あ、おはよう多串くん」
「多串じゃねぇ!!」

寝坊らしい。それも毎回。なんともがっかりしてしまう。勝手に期待した自分が悪いのだけど。

「今日という今日はテメェのひねくれた根性叩き直してやる!表出ろゴラァ!!」
「暴力反対で〜す」

坂田副長の胸ぐらを掴み殴りかかりそうな勢いの土方副長。
飄々とした態度で煽っていく坂田副長。
まさに一触即発。今にも土方副長は抜刀しそうだし、坂田副長にも隙が見えない。

「ほら、トシも銀時も落ち着けって。新人の子がびっくりしちゃってるだろ?

近藤局長がその場を納めたが2人はピリピリしている。
やはり、あの噂は本当だったのだ。
副長達は仲が悪いと…!!

※※※※※

まずは配属が決まった十番隊に挨拶をした。原田隊長の顔が怖かったが、見かけによらずとてもいい人で、先輩が「ああ見えてあの人は可愛いものが好きなんだ」と教えてくれた。
一通り説明を受けた後、「失礼します」と隊士が入って来た。

「土方副長が田中を呼んでます」

朝からあんな姿を見たせいか、何かやらかしたのかと冷や汗をかく。
それに気がついたのか原田隊長が

「大丈夫だって。取って食われたりしねぇから安心しろ」

と笑ってくれたので、少しだけ怖くなくなった。

※※※※※

「失礼します」

副長室に入るのは初めてだし、なにより鬼の副長と恐れられる土方が副長だ。その緊張といえばとてつもない。

「そこに座れ」
「失礼します…」

座布団を指され大人しく座る。
土方副長は綺麗な顔をしているが、威圧感があり思わず猫背気味の背筋を伸ばした。

「田中。俺と坂田、どちらに付く?坂田に付くならわかってるよな…?」

笑っているが笑ってない。殺られる!コクコクと頷くと、満足したようで

「呼び出して悪かったな。業務に戻ってくれ」

と言われ副長室を後にした。

※※※※※

それから十番隊の先輩に屯所内を案内してもらった。
外からは何度も見ているが、やはり広い。迷ってしまいそうだ。
一通り説明を受けた所で、別の先輩がやって来て

「坂田副長が部屋に来いってさ」

とまたしても呼び出しを受けてしまった。

※※※※※

「失礼します」

坂田副長は気さくでかぶき町の人から「銀さん」と呼ばれ親しまれている。その一方で攘夷浪士から白夜叉と恐れらる人だ。
やらかしたのかと土方副長と同じくらい緊張する。

「入っていーよー」

間延びした声が聞こえて少しだけ安心。
「そこ座って」と指された座布団に座った。

「失礼します」
「えーと、田辺くんだっけ?俺と土方のどっちに付く?土方に付くなら、わかってるよな…?」

にっこりと、人好きのする笑顔をしているが冷や汗が止まらない。
コクコクと頷くと満足したようで

「呼び出して悪かったな。そろそろ昼だし、食堂でも行ってこいよ」

と言われ副長室を後にした。

※※※※※

食堂に向かうが生きた心地がしない。どちらの副長に付いても俺はきっと殺される!逃げようかな…でも逃げたら切腹だから結局死ぬのか。
お母さん、お父さん、そしてまだ見ぬ可愛いお嫁さん。先立つ不幸をお許しください。

重い足取りでお盆を取り列に並ぶ。カレーのいい匂がして腹が「グゥ」と鳴った。
が、何故か俺にはカレー皿ではなく丼に盛られた白飯が渡される。
まさか洗礼か…!?と思っていると、何処からか音楽と共にバタバタと走る音が聞こえて

「マヨネーズの魔人!!」
「あずきの魔人!!」
「「田中!!どっちに付く!?」」

なんだこれは!?土方副長はマヨネーズの被り物、坂田副長はあずき缶の被り物をしている。そしてそれぞれ、マヨネーズとあずき缶を両手に持っていた。

「勿論、土方スペシャルだよな!」
「いいや、宇治銀時丼だよな!」

混乱している間にも副長達は「「どっちなんだ!?」」と問い詰めてくる。
冗談で緊張を解そうとしてくれているのかと思ったが、2人とも目がマジだ。ガチ中のガチ。
副長2人がギャーギャー言い合いをしているのを見ているどうすればいいのだ、と立ち尽くしていると

「田中くん。正直に答えればいいから」

周りを見ればその場に居た全員が大きく頷いている。

「あ、あの…!」
「土方スペシャルだろ!?」
「宇治銀時だよな!?」

すぅ…と息を大きく吸い込んでこう答えた。


「どちらも嫌です!!!」

※※※※※

白飯の上にカレーがかけられてようやく飯にありついた。無事に生き延びる事が出来ました。

「あの…副長達のあれは…?」
「あぁ、あれね。あの人達の悪い癖というか、自分の好物どちらが優れてるかみたいなのを新人隊士で決めさせて勝負してる感じかな」
「因みにどちらが勝ってるんですか?」
「2人とも全敗」

「嫌だ」と言った後の副長達の絶望した顔を見たらなんとなく予想はついていた。

「あの2人の事は気にしなくていいからね。今頃、部屋で揃ってうちひしがれてるだろうけど、明日にはケロッとしてるから」
「副長達の仲が悪い原因ってさっきのあれなんですか?」
「いーや。その逆。あの2人いつもイチャイチャするから、それを見るこっちの気にもなって欲しいよ。ま、田中くんもその内わかるから」
「そうなんですねー」

イチャイチャなんてとても想像つかないが、周りの隊士達も頷いたのでそうなのだろう。

「まぁ、洗礼も受けたし、改めて真撰組にようこそ田中くん」
「はい!ありがとうございます!山口さん!」
「いや、俺山崎」

まだ副長達の事はよくわからないけれど、先輩達は優しいし、カレーはとっても美味しかったです。
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