W万事屋(銀土)

路地裏でぼろぼろに汚れた黒猫を拾った。

「ねぇ、お兄さん。お金に困ってる?家もないの?じゃあいい仕事があるんだけど。大丈夫、その身体があればいっぱい稼げるよ?」

黒猫は少し迷って、小さく頷いた。

※※※※※

「クソ天パあああああ!!!いつまで寝てやがる!!!!」
「ギャアアアアア!!!待って!土方くん!!俺、今帰ってきたとこ…!!」
「うるせぇ。依頼が詰まってんだ。さっさと行け。まず源さんの所で屋根の修理。それが終わったら、お滝さんの娘の世話。次が弥七さん家の庭の草むしりだ。覚えたな?なら行け」

1年前、路地裏で黒猫を拾ってきた。その黒猫を風呂に入れてみれば、とんでもなく美しい猫だった。
腕っぷしも強く、肉体労働は勿論、用心棒もできる。事務仕事をやってもらえば超有能。スケジュール管理から依頼の受付、帳簿計算なんのその。
万能すぎる。これで、楽ができる!!よっしゃー!!…と思った筈なのだが。
黒猫を拾った事が最大の幸運であり、最大の誤算でもあった。

「てめぇが、楽して稼げるとか抜かしやがったから来てみれば、家賃もろくに払えねぇわ、家計は火の車だわ、依頼は来ねぇわで、ちっっっっっとも楽じゃねぇ。さらに、テメェが連れてきた神楽と定春の食費でさらに家計は圧迫されてんだ!それに志村の給料も払ってやらねぇとならねぇ。つべこべ言わず働け!!!」
「待って土方くん!銀さん働きっぱなしなの!週7で働いてるの!休みないの!ちょっとは休ませて!お願い300円あげるから!!」
「は?今まで週7でたっぷり休んでんだろ」

すっかり黒猫、もとい土方くんに万事屋の実権を握られてしまった。糖分と書かれた額は外され、いつの間にか万事屋法度に変わっている。
これ破ったら切腹なんだよ?もう何回腹を切ったかわからねぇ。そもそも、第一条が働かない天パは切腹って理不尽過ぎない??

「じゃあ聞きますけど、土方くんは働いてるんですかっ!」
「当たり前だろ。今日は、お小夜さんと買い出し、お梅さんと犬の散歩、それからお菊さんの荷物持ちだな」
「それ依頼にかこつけて、お前とデートしたいだけだからね!?こないだ高級レストランでご飯食べさせてもらったのも知ってるんだからね!土方くんばっかりズルい!」
「文句は俺より稼いでから言うんだな」

そう。土方くんは俺よりも稼ぎがいい。よく、依頼料にちょっと上乗せして貰ってきたり、稀に上等な着物なんかも貰って帰ってくる。
それ以外でも、作りすぎたおかずとか買いすぎたお菓子とか、高級食材とか、まぁとにかく色々貰ってる。
基本は断ってるみたいだけど、押しに弱かったり好意を無下にできないからたまに貰っているようだ。
土方くんはイケメンだ。顔が良い。イケメンズルい。俺だって天パじゃなければ、もっとモテてたはず。たぶん。

「言いたいことはそれだけか?じゃあさっさと行ってこい」

ケツを蹴り上げられて玄関まで吹っ飛ばされる。
暴力反対!パワハラだ!でも社長は俺だからパワハラにはならないのか?どうなんだろ?
ケツの痛みを堪えながら、ブーツを履いてしぶしぶ準備をする。玄関には必要な荷物が既に揃えられている。

「おい。忘れ物だ」

ほらよ、と風呂敷に包まれた弁当を渡される。
手作りの愛妻弁当をいつも持たせてくれる。
始めは料理なんか作れなくて、指を絆創膏だらけにしていたのに、今では3つ星シェフも真っ青な美味しいご飯を作ってくれる。

「ありがとよ。それじゃあ行ってくるわ」
「銀時」
「ん?」

「ちゅっ」と額に柔らかな感触。

「行ってらっしゃい」
「いいいいイッてきます!!!」

万事屋の玄関を元気よく飛び出し、階段を踏み外して転げ落ちていく。

「銀さん大丈夫か?また嫁さんに投げ飛ばされたのかい?」
「いーや今日は階段踏み外した」
「はっはっはっ!まぁ、元気があっていいねぇ。今日も頑張んな!」
「ありがとな、親父!また嫁さんと飯食いに行くわ!」
「おう!マヨネーズ用意して待ってるぜ」

身体は痛いけど、心は軽い。
汚れを払って駆け出していく。


今日も万事屋銀ちゃん&トシちゃんは元気よく営業中!


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