こどもの日(高土)

「えっ!?今日誕生日なの!?」
「そうだけど……」
「可愛い!流石俺の十四郎!!」
「可愛い言うな!お前のでもねぇよ!」
 十四郎は抱き付こうとした銀時を投げ飛ばした。桂と銀時の三人で「今日はこどもの日だな」と話していると、ぽろっと十四郎が溢した。
 小さな頃は柏餅やら鯉のぼり、兜などでお祝いをした。村塾ではそんなに大きなものではなかったが、滅多に食べられない甘味もあって楽しかった記憶がある。
 十四郎もたぶんに漏れず、お祝いをした思い出を話した。あまり詳しくは語らなかったが、鯉のぼりを眺めながら柏餅を頬張った。誕生日という事もあって、食事がちょっぴり豪華になったり欲しい物があれば何でも言いなさいと優しい義兄と義姉の顔が浮かんだ。
 そこからの「誕生日なの!?」である。十四郎は「しまった」と思ったがもう遅い。普段は眠そうな表情の銀時が目を輝かせている。
「ヅラ!十四郎を祝おうぜ!」
「ヅラじゃない!桂だ!……だが祝うのはいいな」
「はぁ!?そんなのいらねぇよ!」
「まぁ、そう言うな。今は戦況も落ち着いているし息抜きにも調度いい」
「そうと決まりゃあ知らせてくるな!」
 そう言うと銀時は陣に居る者たちに声をかけに走っていった。
「マジかよ……」
「誕生日にかこつけて騒ぎたいだけさ。ここにいる連中は皆そういう者だ。あまり気にせずお前も息抜きをするといい」
 誕生日祝いと言われると気が引ける。いつ戦闘になるかもわからないし、物質も余裕がある訳ではない。だが、気を張り詰めすぎてしまうのも良くない事も知っている。
 暫くすると賑やかな声が聞こえてきた。どんな風に言ったのかわからないのが怖い所だが、楽しそうな声を聞くと悪い気はしなかった。


「なんだこりゃあ」
 高杉が偵察から戻ると陣はお祭りモードだった。警戒心の欠片もない。中にはほぼ裸で踊っているような者もいる。これでは急襲されでもしたら全滅なんて事もあり得る。
 こんな事をするのは銀時だろうと文句を言う為に中へと足を進める。明らかに不機嫌な高杉が近付いてくるのに気付いた者たちは、ピタリと静かになった。
 中庭には不細工な魚まで泳いでいる。それを見て頭が痛くなった。日付を思い出してそれが鯉のぼりを模した物だと分かると、さらに頭が痛くなったような気がした。
 戦況が落ち着いているとはいえ、物質も少ない中でこんなふざけた事をする余裕はない。ヅラは何故止めなかったのかと、二人を探していると後ろから声をかけられた。
「総督!」
 振り返ると十四郎が嬉しそうに走ってきた。手には白い何かを持っている。
「総督、お帰りなさい。これ、柏餅……にはならなかったけど総督の分」
「何してんだこんな時に」
 予想していなかった声の冷たさに十四郎がビクリと震えた。渡そうとしていた団子は廊下へと落ちる。
「こ、れは……あの……」
「銀時とヅラはどこだ?」
「……たぶん広間に居ると思う」
「そうか」
 高杉は背を向けると足早に広間へと向かう。十四郎は落ちてしまった団子を見つめたまま立ち尽くしていた。

「高杉くんサイテー」
 銀時から事の顛末を聞いて高杉はショックを受けた。事情を知らなかったとはいえ、間違いなく十四郎を傷付けたに違いない。
「俺たちも悪い所がある。だから、そう気を落とすな高杉」
「理由も聞かずに一方的に突っぱねて、好きな子の誕生日も知らないとかあり得なくなーい?」
「グッ……」
「おい、銀時!」
 銀時の言う事は最もである。せめてあの場で理由を聞くなりすればよかった。それを冷たくあしらい、十四郎が手作りしたという団子は廊下に落ちた。
「……俺はどうすりゃいい」
「まずは、謝るしかないな」
「あやまる……」
 高杉の落ち込みっぷりに流石の銀時もイジメすぎたと思った。何か言えば言い返すなり、拳か脚が飛んでくるがそれがない。高杉は本当に落ち込んで、メンタルが地の底にあるらしい。
「あー……その、謝ってちゃんと誤解を解けば十四郎もわかってくれるって。な?」
 初めて見る高杉の姿に戸惑いながらも慰める。すっかり落ちてしまった肩を叩き、背中を押してやると弱々しくも高杉は立ち上がった。
「……十四郎を探してくる」
「俺たちも手伝おう」
「いや……俺だけでやる」
「分かった」
 高杉が去ると銀時がポツリと漏らした。
「あー……なんでライバルの手助けしちまったかなぁ」
「俺はお前のそういう所、好きだぞ」
「お前に好かれても嬉しかねぇんだよ」
「とりあえず仲直りパーティーでも開いてやるか」
「そうだな」
 こどもの日と誕生日に、仲直りパーティーも追加された事をソッと伝える為に部屋を後にした。

「十四郎」
「……そ、とく」
 押し入れを開けると十四郎は膝を抱えて座っていた。拾ってきた頃、押し入れや小屋に入って小さくなっている事がよくあった。
 詳しい事はよく知らない。あまり話したがらなかったので無理に聞く事はしなかった。ただ、過去に何かしらあったのだろうと想像はついた。
「……すまない。理由も聞かずにあんな態度とっちまった……」
「いや……総督が正しいよ。戦場なんだから浮かれてる場合じゃねぇもんな」
 無理矢理に作った笑顔に余計に心が痛む。あの時に冷たくあしらわなければ、今頃心からの笑顔になっていたであろうに。
「誕生日おめでとう」
「えっ……」
「俺はお前に出会えてよかったと思ってる。今からでもお前の事を祝わせてくれねぇか?」
 高杉の手が十四郎の頭に触れる。拒否されると思っていたが、十四郎はそれを受け入れた。
 じんわりと十四郎の目尻に涙が浮かぶ。悲しいと感じた気持ちは残っている。けれど、それ以上に暖かい気持ちが胸の奥から込み上げていた。


 
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