クリスマス(高土)

「クソッ…!」
 高杉は何度目かわからない悪態を付いた。時計はとっくに定時を回っている。
 仕事が終わらない。よりにもよってクリスマスの日に。パーティーをしたりバカ騒ぎするような質ではないが、一緒に過ごしたいと思う相手はいる。
 サンタの正体は小学生の時に知ったし、クリスマスなんてバカじゃねえの?なんて斜めに構えた可愛げのない子供だった。
 パーティーとかプレゼントとか面倒臭いからと、クリスマス前に彼女と別れるくらいの人間だった。どれだけ泣き叫ばれようが、怒鳴られようが高杉は相手に興味がなかったのでなんとも思わなかった。
 それがどうだ。予定の時間に帰られないというだけで、焦りと罪悪感が沸き出てくるなんて思わなかった。
 去年の今頃は土方の家に勝手に上がりこんで、小さなツリーを飾り付けた。仕事が終わって帰ってくるのを今か今かと待っていた。ピザとチキンを二人で食べて、甘い物は苦手だが形だけでもとコンビニで小さなケーキも買った。それからプレゼントを渡して、と楽しい時間を過ごしていた。
 ところが社会人一年目となった今は環境が変わってしまった。待っていた自分が待たせる側になっている。 
 三時間程前に土方から帰宅したという連絡が入っていた。だが、一方の高杉はまだ会社に居る。年末とはこんなに忙しいものなのか。いくら高杉が優秀で仕事が出来たとしても限界はある。全く仕事の終わりが見えない。それは同僚たちも同じであるのだが。
 予想外のトラブルの対応でオフィスから悲鳴が上がっている。デートの予定が家族とパーティーがと泣きながらもキーボードを叩く。「まだ仕事が終わらないんだ」と彼女に怒られている怖い先輩が平謝りしていた。
『気にしなくていいから。無理するなよ』
 スマホに表示されたメッセージは土方からのものだ。気にするなと言われても、気になるものはどうしようもない。クリスマスを一緒に過ごしたいと言い出したのは高杉の方からなのだ。
 学生なんて用意できるプレゼントはたかが知れている。ボーナスで土方へのプレゼントを買ったのに渡す事さえ出来ないかもしれない。別にいつ渡したって土方は喜んで受け取ってくれるだろうけど、やっぱり今日の為に頑張ってきたのだから今日渡したいと思う。
 ようやくトラブルが解決した頃は終電の時間が迫っていた。みんなボロボロになりながら足早にオフィスを去っていく。
 全力で走って滑り込んだ電車の窓に疲れきった顔が映る。正直、疲れているし電車の揺れで目蓋が重くなる。
 明日も朝から仕事だし。急いで飯を食って風呂に入って寝る。クリスマスどころじゃない。雪も降らないらしい。降ったら電車が遅延するから出来れば降らないで欲しい。
 土方はもう寝てしまったかもしれない。今から帰ると連絡したが既読が付かない。教職は朝が早いから仕方のない事だ。何度か寝不足で仕事に行かせてしまった事があるが、初めて申し訳なさを感じてしまった。
 本当になんでこんな時期にクリスマスなんてあるのだろう。もっと余裕のある時期でもよかったんじゃないだろうか。
 せめて日付が変わる前に帰宅してプレゼントは渡したい。寝過ごさないように気をつけなければと、必死に睡魔と戦う社会人一年目のクリスマスであった。
 
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