高杉がフラれる話(高土)

「土方くん……出て行っちゃったんだって……?」
 嫌みなくらい広い部屋の真ん中に、高杉が小さくなって座っていた。
 カーテンを締め切って、電気も付いていないから昼間だというのに部屋は薄暗い。元々、物の少ない部屋だからか余計に殺風景に見える。防音も完璧で生活音なんて聞こえない。
 高杉はジッとスマホを見つめている。後ろから静かに覗き込むと、短いメッセージが見えた。
 高杉と土方の出会い方はロクなものではなかった。所謂、罰ゲームというやつだ。土方は知っていたのか、知らなかったのか。それはもう今では分からない。
 いつもの四人で麻雀勝負し、珍しく高杉が負けた。大学生にもなって、と思うが悪ガキがそのまま図体だけ大きくなってしまった。
 男でも女でも声をかけてナンパして、告白する。最低な事だが、酒も入った悪ガキの俺たちには関係のない話だった。
 その時に声をかけたのが、田舎から上京したばかりの土方だった。
 高杉は良くも悪くも大学では有名だった。一日一回は告白されるとか、女をヤリ捨てただの、ヤリチンだの、まあとにかく話題には事欠かない。 
 そんなだからか、高杉からの告白というのは怪しまれて断られるばかりだった。余裕だと言っていた高杉も納得がいかないと、途中から成功するまでやるという事になっていた。
 土方は家の都合で大学に来るのが少し遅くなったからか、高杉の話を知らなかったのかもしれない。「友達からなら」という返事は純粋に友達になろうという意味だったのかもしれない。
 今となってはわからないけれど、とにかく高杉と土方は付き合うという事になった。
 本気になったのは高杉の方だった。いつしか女遊びも、ギャンブルもやめていた。ただお互い喫煙者だったからか煙草だけは変わらなかった。真面目に講義に出て休日になれば土方とデートをする。
 演技かと思っていたが、本気なのだと分かった時には二人で暮らすようになっていた。
 始まりはどうであれ、高杉が変わったのはいい事だと思う。笑う事が増え雰囲気が柔らかくなった。高杉を変えて、誰かを愛する事を土方が教えてくれたのだとこっそりと喜んでいた。
『土方が出ていった』
 昼過ぎに目が覚めるとスマホに表示されていたメッセージ。どうしようもなく胸騒ぎがして家を飛び出してきた。
「喧嘩でもしたのか?」
「いいや、してない」
「何か、怒らせちゃったとか」
「わから…ねぇ」
 二人がどうだったか思い浮かべる。穏やかに幸せそうに笑っていて、喧嘩なんて無縁な様子だった。
 高杉は沢山の愛を注いでいたと思う。大切に、大切にしていたと思う。
『愛してる。今までありがとう、高杉』
 銀時が知る限りで唯一高杉が愛した――――男。
「銀時……俺は何を間違えたんだ……?」
 その目は憔悴しきっていた。今にも消えてしまいそうな程に頼りない。
「花はさ……水をやりすぎても枯れるんだぜ」
 テーブルの上には、高杉の物ではない煙草の箱がポツンと残っていた。
 
 
 
 
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