酒(高土)
「かんぱーい!!」
その合図と共に控え目に合わせられるグラス。年末は忙しくなる、イベント事も多いので早めに忘年会が行われる事になった。結局は飲みたいだけの連中で集まった普段の飲み会とほぼ変わらないのだが。
各々でグラスを傾けたり、料理に箸をつけて駄弁っている。山盛りだった筈の唐揚げは一瞬で消え去っていた。
ビールを飲みながら土方は斜め向かいの席に座る高杉を見た。涼しい顔で酒を飲みながら同僚と喋っている。
高杉は大学の後輩にあたる。土方が4年生の頃に入学してきて、学部も違っていたし殆んど接点はない。だが、そんな高杉につい先日「先輩の事が好きだ」と言われた。あまりに自然だったから人間としてだと思い「ありがとう」と返した。だが、それに対して高杉は「恋愛としてです」と言ったのだ。
それから高杉との距離を計りかねている。告白されてからも高杉は何事もなかったかのように接してくる。あれは聞き間違いだったのかと思えば、不意に熱のある視線を送られている事に気付いてしまう。
酒も好きだし、飲み会も嫌いではない。騒がしいのは苦手だが、今の部署は和気藹々といった感じで正直居心地はいい。忘年会に誘われて了承したのだが、後から普段参加しない高杉も来ると聞いて少々気が重くなった。断る事も考えたが、予約も取ってしまったし楽しみにしているのを見ると断るのも気が引けてしまう。どうしようかと決めかねている内に当日を迎えてしまったのである。
もう一度、高杉を見た。人の気も知らないで楽しそうに酒を飲んでいる。飲み会の参加は初めてだからか、質問責めに合っていた。ふと高杉と目が合ってしまい、意味ありげに微笑まれて慌てて目をそらした。
そしていつの間にか、土方は飲み過ぎてしまった。考えないように酒を飲み続けていたらキャパを超えてしまったらしい。潰れるまで飲むなんて珍しいと、聞こえたような気がした。まだ飲み足りない連中は二次会へと行くようだったが、流石に土方は無理だと判断された。ぼんやりとしながら自分で帰ると言ったが誰かが送ってくれるらしい。
住所を伝える為に財布を渡した。そいつは免許証でタクシーの運転手に住所を伝えてくれた。タクシーの揺れと、隣にある体温が心地よくて目蓋が重い。
マンションに着くと肩を借りて部屋の前まで連れてきてくれた。「鍵探しますよ」と声がしたからコクコクと頷いた。
玄関が開いて中に入ると当然だが真っ暗だ。習慣からか壁にある電気のスイッチを探す。視界が一気に明るくなった。お礼を言わないとと思い、肩を貸してくれている人物の顔を見て驚いた。その拍子に足がもつれて倒れこむ。
見上げると高杉の顔があった。さらに、押し倒されるような形で。今までは薄暗くてよく見えていなかったが、ここまで送ってくれたのは高杉だったらしい。驚きと後頭部の痛みで酔いが覚めていく。
「先輩、無防備過ぎませんか」
「たか……す、ぎ……」
「先輩だって分かるやろ?俺も……男なんやで?」
食われる。逃げたいのに真っ直ぐ見下ろしてくる目を反らす事ができなかった。
その合図と共に控え目に合わせられるグラス。年末は忙しくなる、イベント事も多いので早めに忘年会が行われる事になった。結局は飲みたいだけの連中で集まった普段の飲み会とほぼ変わらないのだが。
各々でグラスを傾けたり、料理に箸をつけて駄弁っている。山盛りだった筈の唐揚げは一瞬で消え去っていた。
ビールを飲みながら土方は斜め向かいの席に座る高杉を見た。涼しい顔で酒を飲みながら同僚と喋っている。
高杉は大学の後輩にあたる。土方が4年生の頃に入学してきて、学部も違っていたし殆んど接点はない。だが、そんな高杉につい先日「先輩の事が好きだ」と言われた。あまりに自然だったから人間としてだと思い「ありがとう」と返した。だが、それに対して高杉は「恋愛としてです」と言ったのだ。
それから高杉との距離を計りかねている。告白されてからも高杉は何事もなかったかのように接してくる。あれは聞き間違いだったのかと思えば、不意に熱のある視線を送られている事に気付いてしまう。
酒も好きだし、飲み会も嫌いではない。騒がしいのは苦手だが、今の部署は和気藹々といった感じで正直居心地はいい。忘年会に誘われて了承したのだが、後から普段参加しない高杉も来ると聞いて少々気が重くなった。断る事も考えたが、予約も取ってしまったし楽しみにしているのを見ると断るのも気が引けてしまう。どうしようかと決めかねている内に当日を迎えてしまったのである。
もう一度、高杉を見た。人の気も知らないで楽しそうに酒を飲んでいる。飲み会の参加は初めてだからか、質問責めに合っていた。ふと高杉と目が合ってしまい、意味ありげに微笑まれて慌てて目をそらした。
そしていつの間にか、土方は飲み過ぎてしまった。考えないように酒を飲み続けていたらキャパを超えてしまったらしい。潰れるまで飲むなんて珍しいと、聞こえたような気がした。まだ飲み足りない連中は二次会へと行くようだったが、流石に土方は無理だと判断された。ぼんやりとしながら自分で帰ると言ったが誰かが送ってくれるらしい。
住所を伝える為に財布を渡した。そいつは免許証でタクシーの運転手に住所を伝えてくれた。タクシーの揺れと、隣にある体温が心地よくて目蓋が重い。
マンションに着くと肩を借りて部屋の前まで連れてきてくれた。「鍵探しますよ」と声がしたからコクコクと頷いた。
玄関が開いて中に入ると当然だが真っ暗だ。習慣からか壁にある電気のスイッチを探す。視界が一気に明るくなった。お礼を言わないとと思い、肩を貸してくれている人物の顔を見て驚いた。その拍子に足がもつれて倒れこむ。
見上げると高杉の顔があった。さらに、押し倒されるような形で。今までは薄暗くてよく見えていなかったが、ここまで送ってくれたのは高杉だったらしい。驚きと後頭部の痛みで酔いが覚めていく。
「先輩、無防備過ぎませんか」
「たか……す、ぎ……」
「先輩だって分かるやろ?俺も……男なんやで?」
食われる。逃げたいのに真っ直ぐ見下ろしてくる目を反らす事ができなかった。
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