ハプニング(高土)

「テメェ!狭ぇんだからもうちょっと小さくなれや!」
「あ゛?誰が小せぇだと?」
 困った事になった。過激派攘夷志士の高杉晋助と一緒に閉じ込められてしまった。
 高杉を追っていたら総悟のバズーカで吹き飛ばされ、都合良く放棄されていたロッカーに二人で収まってしまった。元々壊れていたのか扉は開かないし、身動きもまともに取れないのでどうにもならない。携帯のGPSで居場所を突き止めてくれるのを待つしかない。
「だいたい、シリアスキャラのお前がなんでこんなベタなギャグ展開に居るんだよ!」
「知るか。さっきから喧しいんだよ副長さんよォ」
 高杉が居るならギャグ展開にはならないはずだ。こういうのは万事屋の役目だと相場が決まっている。
「狭ェ。もうちょっと寄るかしろ」
 高杉の手が俺の胸を押す。
「…っ…!?」
「…?」
 ぺったんこではあるが一応胸はある。その胸を高杉が不可抗力と言われればそうかもしれないが―――揉んだのだ。
 揉まれた感触がしたので、当然高杉もその感触は伝わっている。俺はそんな所触られた事などないからパニックになり、高杉はあるはずのない感触に不思議な顔をしている。
「おいっ…!さわん、なっ…!?」
 あろうことかこの男は不思議な顔をしながらまた揉んできたのだ。それが何かを確かめるように明確な意思を持って。
「あんた胸に何入れてんだ?」
「な、なんにも入れてねぇよ…!!」
 豊胸とかしてねぇ天然物だぞ俺のは!!恥ずかしいしパニックだしで目尻に涙が浮かぶ。
 揉むのを止めてくれたと思ったのも束の間、今度は股関に高杉の膝が当たる。
「やめろ…!ほんとにっ…やめ…っ…!」
「ククッ…こっちは小せぇみてぇだな」
 小せぇってなんだ!膝をグリグリ押し付けてくるな!
 もう本当に勘弁して欲しい。胸を揉むのも再開されるしでこのまま恥ずかしさで死んでしまいそうだ。総悟でも近藤さんでも山崎でも誰でもいいから早く助けに来て欲しい。
「も…胸、揉むの…やめっ…」
「胸だァ?こんな小せぇのが胸な訳あるか」
 トドメの一撃である。その言葉がショック過ぎて恥ずかしくて辛くてもう駄目だった。目から涙が溢れるのが止まらない。鼻をすする。
 けれど暗いからか高杉は泣いてる俺には気づかない。
「土方さーん。生きてやすかぃ?」
 聞き慣れた声がしたと思ったら轟音が響く。爆風でロッカーの扉が開いたのを見逃す事なく高杉は去って行った。
「副長、お怪我はありま…どうしたんですか副長…!!」
 一人ロッカーに残りハラハラと涙を流し続ける俺を見た山崎が驚いた声を上げる。
「うぅっ…た、かすぎにむね…ちいさい…っていわれ…っ…た」
「は…?」
「高杉の野郎に胸、触られたんですかぃ…?」
 俺の言葉に場が凍りついたがそれに気付かないまま、時折しゃくりあげながら話続ける。
「も、もまれ…て…こんな、ちいさい…のがっ…むねなわけ、ある…かっ…て」
「副長…胸の大きさで価値が決まる訳じゃないですよ」
「やまざき…」
 山崎がハンカチで涙を拭う。まだショックは抜けないが話を聞いてくれたおかげか少しだけ落ち着いた気がする。
「テメェら聞いたか…高杉の野郎をブッ殺しに行くぞ!!」
 いつになく総悟がやる気を見せた。そんなに高杉を逃がしたのが悔しかったのだろう。他の隊士たちも今まで見たこともないくらいにやる気に満ちている。
「副長は一度屯所に帰って休みましょう」
「わかった…」
 高杉捕縛の為に捜索に向かった総悟と隊士たちを見送ると迎えのパトカーへと乗り込んだ。



 
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