ハロウィン(高土)

「しんすけー!」
「どうしたァ、トシ?」
 高杉の前に小さな子供が走り寄り「はい!ほーこくします!」と手を上げた。
 この年頃の子供は大人の真似をしたがる。高杉の部下達が報告する様子を見ていたら、いつしかトシもやるようになっていた。
「おばけになってお菓子欲しい!!」
 元気いっぱいに発言する姿は愛らしいのだが、いかせん要領を得ない。お化けになりたいという事とお菓子が欲しいという事がいまいち繋がらない。お菓子なら毎日15時に食べている。勿論、太りすぎや虫歯に気をつけてだ。それに不満があるのかと思ったがそうではないらしい。
「あぁ、もう危ないから先に行っちゃ駄目っていつも言ってるッスよね!?」
「うぅ…ごめんなさい…」
 どうやらトシが先走ってきたようで、後から追いかけてきたまた子に叱られシュン…とする。
「わかったらいいッス!」
 また子がトシの頭を撫でてやると一瞬で笑顔になる。
「晋助様、トシの言ってる事なんですけど…」

 また子とトシは江戸に買い物に出掛けていた。暫く江戸に降りない内にカボチャだったりお化けの装飾で町が飾られていて不思議に思っていた。そこで初めて「ハロウィン」という行事があるという事を知った。簡単に言えば仮装してお菓子を貰うという天人由来の行事らしい。元来お祭り好きな江戸の人間だ。すぐに広まってハロウィン一色になるのには時間がかからなかった。
 本来のハロウィンとは厳密には違うのだが、企業の戦略なんかも相まって楽しい部分だけを抜き取っているといった感じだ。それを見てトシも自分もやりたいと言い出したのだ。
 高杉は天人が嫌いだ。だがトシがやりたいと言うのなら全部叶えてやりたいと思うくらいには溺愛している。ハロウィンがやりたいと言うならやるし、将軍の首が欲しいと言うなら喜んで取りに行く。
「万斉!全員に伝えろ!!ハロウィンをやるぞ!!」
 善は急げと高杉は万斉に指示を出した。こうなったら高杉は誰にも止められないと知っている。万斉は溜め息を吐きながらも、ハロウィンがなんたるかを纏め鬼兵隊に伝達を行った。

 ハロウィン当日。
 トシはオレンジ色のカボチャを模したポンチョにお菓子を入れる為のバケツを持った。ちゃっかりまた子も衣装を買っていたようで、悪魔の角と羽を付けてキュートな小悪魔になっている。
 カボチャのお化けになったトシは堪らなく可愛かった。目に入れても痛くない程に可愛かった。左目に収納すればいつでもトシと一緒に居られるなんて事も思った。とにかく可愛い。まさに天使というやつだ。
 トシの可愛いさに悶える高杉の頭には猫の耳のカチューシャが付いてる。トシがわざわざ高杉の為にと選んで買ってきたものだ。
 それを付けてくれと頼まれたのなら断るなどもっての他である。他人から見れば恐ろしい程に似合わないとしても高杉には関係のない話だ。
 事前に各部屋にはトシがお菓子を貰いに行くと通達してある。お菓子がない、なんて事のないようにその辺りも万斉が胃を痛めながらもきっちりと用意した。鬼兵隊のアイドルでもあるトシの訪問を断る者などいないが、万が一断れば確実に首が飛ぶ。
 トシが部屋のドアをノックすると中から顔の怖い部下が出てきた。
「とりっくおあとりーと!」
 その合言葉を聞いた部下は怖い顔をデレデレさせながらお菓子を渡す。
「ありがと!」
 ニコッと天使の微笑みを見せるトシにさらにデレデレして頭を撫でようとしたがピタリと動きが止まった。
 トシの後ろに控えた猫耳付きの高杉が恐ろしいまでの殺気を放っていたからだ。それでなくても恐怖の象徴のような高杉だ。猫耳まで付いていてるしでもう何が怖いかもよく分からない。
「トシ、次行くぞ」
「はーい!」
 高杉がトシに声をかけると次の部屋へと向かう。そこに残された部下は仲間の無事を祈るばかりであった。
 カボチャの天使と猫耳の魔王によって鬼兵隊のハロウィンが一生忘れられない物になったのは言うまでもない。

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