おそろい(高土)

「理香ー!今日も王子様はいた!?」
「いたいた!今日、すっごく近くでさ!奈緒子は!?」
「もうバッチリ目に焼き付けてきたわ!」

私の名前は理香。集英高校に通う女子高生だ。親友の奈緒子とは高校で出会った。朝、学校の最寄り駅で待ち合わせて一緒に行くのだがそれには日課がある。それはお互いが電車で見つけた王子様報告だ。
別の路線で通っているのだが、それぞれの路線に王子様が乗っているのだ。「今日も格好よかった!」「目が合った!」なんて言いいながらいつも学校に向かっている。
私の王子様は真選高校の制服を着ていて、切れ長な目が涼しげで格好いい。運動部なのか通学カバンの他に大きめなスポーツバックを持っている。
奈緒子の王子様は松下高校で、左目に眼帯をしているそうだ。制服は着崩されていて聞いた限りでは不良っぽい印象なのだが、そこがいいのだと彼女は言っている。
写真の一つでも欲しいところだが、満員電車で写真なんて撮れる訳がないしそもそも盗撮はよくないよね、と二人で悔し涙を流しながらも我慢している。だからお互いの王子様がどんな顔をしているのか知らないのだ。
「そういえば、カバンにキーホルダーが付いてたの」
「キーホルダー?」
「そう、宇宙怪獣ステファンだと思うんだけど」
「うそ!?私の王子様も付いてた!」
宇宙怪獣ステファンというのは、今人気のアニメのキャラクターだ。昨日までは付いていなかったはずのキーホルダーが少し気になったが、ステファンはどこでも見かけるしクラスの子も付けているから、たまたま王子様達が同時に付けたのかもしれない。
「彼女からだったらどうしよ~理香~」
「あり得そうだよね…え~だったら凹むわ…」
だって王子様なんだから彼女が居たっておかしくない。何も付いてなかったカバンに急にキーホルダーが付いたら彼女とお揃いの可能性が出てくる。
そもそも名前すら知らない相手の彼女の可能性に憂鬱になるのもおかしな話ではあるが、彼らは癒しなのだから凹んでしまうのも許して欲しい。
「いやでもまだ分からないし!明日も会えますように!」
「奈緒子立ち直り早すぎw」
奈緒子のこういう前向きな所が好きだ。確かにまだ彼女を見た訳じゃないんだから、チャンスはあるはずなのだ。
「あっ!時間ヤバい!走るよ!」
「うそ!伊東先生遅刻に厳しいんだよね!」
このままでは校門に立っているであろう生活指導の伊東先生に校門を閉められてしまうと急いで走るのだった。




「奈緒子!あそこに王子様が居るんだけど!」
「マジで!?どこどこ?えっ、マジで格好いいじゃん!」
キーホルダー事件から数週間後。私は奈緒子と遊びに出掛けていた。するとそこで私の王子様を見かけたのだ。誰かを待っているのか、スマホを弄りながら少し微笑んでいるように見えた。Tシャツにジーンズというシンプルな服装だがモデルに顔負けである。思わぬ所で私服を見ることができて心の中でガッツポーズをした。
「理香、ヤバい!私の王子様が歩いて来てる!」
「うそ!?え、もしかしてあの二人友達なの!?」
奈緒子の王子様が手を振ると私の王子様が笑いながら振り替えした。奈緒子の王子様は少し小柄のようだがかなり格好いい。
「ねぇ、理香。王子様達の後をつけてみない…?」
奈緒子がニヤリと笑う。後をつけるなんて悪い事では…と思ったがこんなチャンスは早々巡ってこないだろう。
「いいね、それ」
私も悪い顔をして笑い返した。


王子様達は途中でコーヒーショップに寄ったり、アパレルショップで買い物をしたりと普通の高校生の休日といった感じだった。
だが一つ気になる事がある。
スニーカーが色違いだったり、ブレスレットが一緒だったりとお揃いの物があるのだ。あと何だか普通の男子とは距離が近い気がする。
同じクラスの男子同士の距離感とはうまく言えないがどうも違う。
あれは何なのだろうと思っていたら奈緒子も同じように思っていたらしい。
どういう事だと顔を付き合わせていたら、奈緒子の王子様が私の王子様の手を引いて路地の方へ入っていったので追いかけた。
(ええええええええ!?)
チューしてた…
あれはどう見たって王子様達がキスをしていた。
ビックリして奈緒子と慌てて表通りに出てきたのだが、まださっきの事態の整理がつかないでいる。
「理香…見たよね…?」
「見た…うん、見ちゃった…」
二人で顔を見合わせる。
でもあの距離感の近さもお揃いの物を持っているのも全て説明が付いた。
「私さ…なんかアリな気がしてるんだけどさ…」
「実は私も…」
彼女だったらどうしようと思っていたが、出来たのは彼氏だったらしい。それもお似合いの。
これからも王子様たちは観察しなければならないとそう心に決めたのであった。



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