指(高土)

ファッション雑誌の裏表紙にはジュエリーの広告が載せられていた。短くも刺さるキャッチコピーと白く細長い指に嵌められたリング。宝石が埋め込まれ、デザインも良く予約が始まるとものの数分で完売した程だという。
だが高杉は主役であるはずのリングになど目もくれず、脇役でしかない指の方をじっと見ていた。
「そんなの見ても面白くねぇだろ」
土方が淹れたばかりのコーヒーを高杉の目の前に置いた。一言礼を言ってそれを受け取り一口飲むとコーヒーの苦味が口腔に広がる。
「面白いというよりは見とれていた、だな」
「いつも見てんのにバカじゃねぇの?」
土方は呆れながらも高杉の隣に腰を下ろす。向かいに座ると拗ねるから面倒臭い。だが可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みであろう。
「いつ見てもお前の指は綺麗なんだよ」
高杉は土方の手を取ると指に優しく口付ける。まるで壊れ物のように扱うからどうにも慣れないでいる。
土方の仕事は手タレである。モデルでも俳優でもなんなくこなせる容姿を持っている。デビューすればたちまち天下を取れるくらいのポテンシャルを持っているのだが、高杉がそれを許さなかった。モデルの話が来た時そんな事をすれば土方に悪い虫が付くとキレまくった。揉めに揉めて手タレならとなんとかその場は治まり、それ以来顔出し一切なしの手タレとして土方は活動している。
手だけでもかなり評判が良くひっぱりダコの活躍を見せ、あわよくばモデルや俳優へ…と勧誘がある度に高杉が威嚇し牽制をする日々だ。
「このジャケットも良く撮れてる」
ファッション雑談の隣には先日発売されたばかりのCDが置かれている。これは高杉が所属しているバンドの最新アルバムだ。
そこには白い手と真っ赤な彼岸花が恐ろしくも神秘的な雰囲気でデザインされていた。
言わずもがな、その手の持ち主は土方である。アルバムのデザイン案が出た時には真っ先に高杉は土方の名を上げた。ごり押しのような物がなかったかと言えば嘘になるが、元々土方は候補に上がっていたので満場一致で決定した。
楽曲だけでなくジャケットのデザインも話題となり売上も上々。ヒットチャートも1位の座を難なく手に入れた。
「なあ、これの噂知ってるか?」
「噂?」
噂、と言われても高杉にはピンと来ない。ただ土方の表情が心なしか曇っているように見えたのが気がかりだった。
「この手は高杉の女の手じゃないかって噂」
売れ行きや評判などは多少は気にするがそれ以外はどうだっていい高杉にとってその話は初耳だった。だが、土方が言うにはネット上やゴシップ記事では「高杉の女説」が浮上しているらしい。
しかし、高杉に女はいない。強いて言えば同性の彼氏だ。それに土方以外には興味もないし勃ちもしないと高杉は自負している。
「…存在もしねぇ女にやきもちか。可愛いな」
「バッカ…!やいてねぇよ!」
顔を赤くして拗ねたのは図星の合図。居もしない女に勝手に不安になってやきもちを妬く目の前の生き物が可愛くて仕方がなかった。
「俺だってなぁ、お前の手を街で見かける度に誰かに取られちまうんじゃねぇかって不安なんだぜ?」
笑いかけてやればまた土方の顔が赤くなった。今度は恥ずかしくて照れているの方だ。
「嫉妬で狂っちまいそうだ」
黙ったままの土方を口唇が触れる距離まで引き寄せる。
「バカじゃねぇの…」
「この指全部切り落として俺だけのモンにしちまいてぇ」
「大事な商売道具だ、そりゃ困る」
高杉は土方の手に指を絡めながらゆっくりとソファに押し倒していく。
「指だけか?お前だけの物にしたいのは」
「いいや?お前の全部を俺のモンにしてぇよ」
「とっくになってるさ」
土方は薄く微笑むと高杉の口付けを受け入れた。

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