Sugary × Indulge...!
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Sugary × Indulge...5.5
(※5話グリ視点)
プリズムタワーの崩壊後は特段ルーティンのようなものはなく、ただただ平凡な日々を送っている。
日が昇れば目覚め街へ出てカフェでの慈善活動をし、そして一日が終わる。帰宅して夜が更けて眠りにつく。その繰り返し。
そんな通り一遍な日常を送っていた。
「今日は夜から大雨らしいぞ」
グリーズがスマホロトムに視線を向けながらそう言った。
ミアレシティでは比較的よく晴れた日が多い傾向ではあるが、たまにひどく荒れる天候の日もあった。
「雨の気配を感じたらきみはボールでお留守番だな、リザードン」
「ガウゥ!」
「グリーズ、いい加減スマホは…」
「はいはい」
ポケットにスマホロトムを雑にしまい、いつものポジションで退屈そうに客の来店を待つ。
午後から天気は下り坂、お客さんの出入りも午前中に集中するだろうか…などぼんやり考えていると、突然自分のスマホロトムが、ふわんっとポケットから飛び出し着信を知らせる。
「(おや…)」
通話を許可し話を聞くと、ヌーヴォカフェ2号店からのヘルプ依頼だった。
《すみません…発注ミスでコーヒー豆のストックを切らしてしまって…在庫余ってたらでいいのですが、分けてもらえませんか!?》
「それは一大事ですね、わかりました。今すぐ届けに行きます」
《ありがとうございます!》
カフェにとってコーヒー豆が無いのは致命的。
多めに見積もっても4、5杯ほどの残量とのことですぐに届けに行かなければならない状況。
「グリーズ!」
「どうした?」
事の顛末をグリーズにも伝える。
幸い我々は2名体制でやっているのでどちらかが一時的にワンオペになるが、店仕舞いまでせずには済む。
「グリーズはうちの大事な看板娘ですから、おれが帰るまでの間店を頼みます」
「はぁ、わかったよ」
「では2号店のフォローに行ってきます」
厄介な客に絡まれて困っているというヘルプは以前何度か経験したが、物資不足のフォローは初めてかもしれない。
前者の場合、決まってグリーズがポケモンバトルで片付けに行ってくれていたので自分はカフェに残りオーダーから提供まで1人でこなす機会もあった。
今回はグリーズを1人残す形になるのでいささか心配ではあるが…彼女もヌーヴォカフェで長く働いてくれている身だ。ひと通りのことはこなせるはず。
♦︎♦︎♦︎
「あ!グリさーん!」
「お待たせしました、いくらか持ってきたのでとりあえず今日の営業はしのげそうですか」
「はい!これだけあれば…大丈夫かと!」
「では…グリーズを残しているので、おれはこれで」
「すみません、本当助かりました…!」
次からは発注の漏れがないよう気をつけてくださいと伝え踵を返した。所要時間にして20分弱といったところだろうか…
雲行きも少し怪しくなってきて太陽はすっぽりと雲に覆われてしまった。
急いで帰ろうと思ったその時、付近のワイルドゾーンエリアが騒がしいことに気が付いた。
「?」
災害や天候の変化に動物は敏感だと昔から言うが、ポケモンもその類でこの後起こりうる変異に何かを察知したというのだろうか…?
なんの気なしにワイルドゾーン12エリアを一望できる所まで歩みを進めると、オヤブン個体のユキノオーが咆哮し、それに呼応するかの如くわらわらと周囲の野生ポケモン達も騒がしくしていた。
「(…あれは、)」
ユキノオーの視線の先には1人の少女がいた。
おそらくポケモントレーナーであろう。
自分も早く店へ戻らなくてはならないことを思い出しその場を去ろうとしたのだが、そのトレーナーは一向にバトルポケモンを繰り出さず、ユキノオーと対峙したままおどおどとしているばかり。
「なぜ戦わない…?」
その様子のおかしさに、もしかすると彼女はバトル初心者のトレーナーなのかもしれないと判断したおれは、一心不乱に彼女の元へ走った。
♦︎♦︎♦︎
「カエンジシ!オーバーヒート!」
「グウォォン!」
カエンジシの攻撃は完全に背後を取った。
虚を突かれた相手は実に脆い。ですがさすがオヤブン個体。
一撃までとはいきませんが、でもだいぶ削れたはずです。
「これで終わりです!
カエンジシ!だいちのちから!」
ーーーーーーーーーー…
ーーーーーーーー…
ーーーーー…
ーーー…
ー…
「よくやりましたね、カエンジシ」
カエンジシをボールに戻し、目の前でうずくまる少女に声を掛けるも反応は無い。
先ほどは遠目からでわからなかったが、手袋もせず両手は真っ赤に悴み、衣類から露出した箇所の凍傷もひどく、こんな雪深いエリアでの彼女の軽装備に驚愕した。
「(早く手当をしなくては……)」
今し方来たばかりのおれですら体感10分もしていないはずだがエリア内の気温差に身体が強張るのを感じていた。
「(ひとまずここから出よう…)」
ワイルドゾーン12のエリア外に出ればいくらか気温も上がるだろう、急激な温度変化も今の彼女には大きな負担になりかねない…丁重に護送しなくてはいけませんね…
♦︎♦︎♦︎
ロトロトロトロト…
「…お?」
《グリーズ!緊急事態です、今日はもう店を閉じます》
「え!?…なんで急に」
《詳しくは合流後…今すぐポケモンセンタープランタン付近まで来てください!》
「え、プランタン…?」
《メディオプラザを南へ直進です!》
「わかった…!ちょっと待ってろ!」
ヌーヴォカフェはキッチンカースタイルで展開するカフェ。いつも運転はおれが担当しているが今ばかりはグリーズしか頼める人がいない。
「…久しぶりの運転だから、ぶつけたらすまない!」
《………致し方ありません…!!》
♦︎♦︎♦︎
10分もせずにグリーズが到着。
良かった、キッチンカーも無傷のようで安心した。
「グリ!なんかあったのか!?」
おれの背に身を預ける少女を見て事の重大さを知ったグリーズは急いで車から降りてきた。
「寒さで衰弱しているトレーナーを保護しました」
「何!?」
「一度ラボに戻りこの子の処置をします!」
「わかった!」
運転は今度はおれが担当し、キッチンカーは二人乗りのため助手席のグリーズには衰弱しきっているトレーナーを抱えてもらい乗車してもらった。
「氷みたいに冷たいぞ!」
「えぇ、おそらく低体温症による身体機能の低下…ワイルドゾーン12エリアで動けなくなっていました」
「はぁ〜?!こんなペラペラの格好で!?」
♦︎♦︎♦︎
ラボに着き、とりあえず暖炉に薪を焼べる。
濡れた衣類から体温を奪われてしまうといけないため、着替えを用意しなくてはなりませんね。
「グリーズ、彼女にきみの服を貸してあげてください」
「わるい、洗濯出すの忘れてて私服は無い」
「なっ…!」
だから洗濯物はこまめに出すようにといつもいつも…!
後回しにしてギリギリまで洗濯を放置する彼女の癖をこの時ばかりは憤懣やるかたない気持ちになった。
「仕方がないのでおれの服を貸します」
「んで、どうすんの?ただ着替えさせるだけでいいのか?」
「…そうですね、患部を温かいお湯で温めたほうがいいかもしれないですね」
「わかった、お湯沸かしてくる」
「お願いしていいですか」
「あぁ」
ラボに連れてきてからも彼女は起きる気配は無く瞼を重たく閉ざしていた。小さく呼吸する音は聞こえていたので少し暖を取れば回復する…と、そう信じている。
「うわっ あ…っちぃ!」
グリーズ……きみに任して本当に大丈夫なのか心配になってきた。だが相手は女性のため異性であるおれが介抱すべきではない。不安だがグリーズを信じよう…。
「グリーズ、くれぐれも熱すぎるお湯を浴びせるのには注意してくださいね…!」
「わかってる…!」
♦︎♦︎♦︎
「終わったぞ!」
「ありがとうございます、グリーズ」
おれの衣類を身に纏った少女はグリーズに背負われた今もなお目を覚ましていない。
「彼女、どうでしたか…?」
「なにが?」
なにって…途中で目を覚ましたとか、外傷は無かったかとか…介抱中に健康状態に異常はなかったかを尋ねているんです…
「意外に胸が大きかった!」
「そういうんじゃなくて!」
きみって人は…!
ひとまず湯冷めしてもいけないので毛布に包みそのままベッドに横になっててもらおう。
「あ、ちょっと髪濡れてるから乾かしてやらないとまずいかも」
「え?」
「あたしはもう疲れた!グリがやりなよ」
そう言ってグリーズは彼女の衣類を持ち洗濯室へ向かった。
暖炉の炭がパチパチとはじける音が2人きりの空間にやたらと響いて感じた。
ドライヤーの音で起こしてしまうかもしれないという一抹の不安はあったが、タオルドライでは冷えにつながってしまうし…と心の中で葛藤しながらも一番弱い温風を当て湿った髪を乾かすことにした。
ソファに身体を預けさせ、丁重に、起こしてしまわぬように。
乾かしている最中も、今ここで目を覚ましたらひどく混乱させてしまうな…など考えてしまい気が気でないまま作業を続ける。
指通りの良い柔らかい毛質…色素の薄いその髪は毛先にいくほど細く光に透けるような髪色、きれいだな…
♦︎♦︎♦︎
ドライヤーを掛けている最中も彼女は目覚めず、髪は完全に乾かせたのでベッドへ移動させる。
首元まで布団をかけ、冷気が入らないように。
「(そういえば…あの子の巻いていたストールにMZ団のロゴが刺繍されていたな)」
既存のメンバー以外では見たことのない顔だが…新しく入団でもしたのだろうか…考えてもわからないことは彼女が目覚めた時に聞けばいい、そう自己完結しグリーズにと淹れたコーヒーを冷めてしまう前に自分で飲み干した。
『ん…』
「!」
布団から出ている顔だけをきょろきょろと動かし状況を把握している。だが状況の整理がつくわけはなく、ここはどこだと不思議そうな彼女。
「気がつきましたか」
『!』
声のしたおれの方に顔を向け、慌てた様子で上体を起こす彼女はじっくりと俺の顔を眺めたのち、あの…と声を発した。
「まだ無理に動かない方がいいです」
ベッドから身を乗り出す彼女を制止させる。
今の今まで衰弱しきっていた身体だ。すぐに動き回っては危ないのでもう一度ベッドへ促す。少なからず動けるまでに回復したようで安心した。
「凍傷がひどかったので応急処置ではありますが、濡れた衣類は今乾かしているところなので身体が温まるまで、もうしばらく安静にしていてください」
彼女はひどく不安と混乱の入り混じった表情をしていたので、落ち着かせるように微笑み、温かいコーヒーを振る舞おうとカウンターへ移動する。
「コーヒーは飲めますか」
『はい…』
「ミルクと砂糖は」
『どちらも多めが…好きです』
「かしこまりました」
オーダー通りの甘くてまろやかなカフェラテ。
どうぞと手渡せば、お礼を言ってからマグカップを受け取り何かに気づいたように一瞬不思議な間があった。
ごくりと飲み込む音がして美味しそうな表情を浮かべた後、表情がまたしても一変。
今度は視線がきょろきょろと焦点が合わず焦っているかのような…かと思えば青ざめたり…今度は顔を赤らめている…
体調が本調子ではないのだろうが、ここまで起伏が激しいとさすがに不安になる。
「顔が赤いですね、発熱でしょうか…」
『ち、ちがいます…!』
これはそういうのじゃなくてその〜…と慌てふためき、もじもじと着用しているおれの服の裾をもう片方の手で触る素振りを見せた彼女を見てピンときた。
もしかしたら…着ていた衣類を脱ぎ着させたのがおれだと思っている…?
「念の為のお伝えですが、きみの着替えや介抱については彼女が対応していますのでご安心ください」
タイミング良くグリーズが彼女の乾いた衣類を持って登場したので誤解がないよう説明した。
すると心底ほっとしたように胸を撫で下ろした彼女は遅れてしまったが…と自己紹介をしてくれた。
カナタと言うそうだ。
自然とおれもグリーズも互いに自分の名を名乗る。
改まったようにカナタは、着用したおれの服を洗ってから後日返すと言った。
別におれとしては洗濯せずとも適当なタイミングで返してくれればよいと思ったのだが、その会話のラリーを鬱陶しく思ったグリーズにより今すぐ返却する流れになった。
♦︎♦︎♦︎
ラボに滞在し1時間弱。
すっかりカナタの容態も良くなり念の為、最寄りの場所まで見送ることにした。
その道中でカナタを救出するまでの経緯と、おれ達が何者かなどの話をした。
会話の流れで彼女は雪深い地域で生まれ育ったから寒さには耐性があったので…と苦笑する。
それにしても無茶をし過ぎているので注意喚起をしつつ、目的地にはあっという間に到着。
このご恩は絶対忘れません、そう言って彼女とはまたヌーヴォカフェで会おうと別れた。
♦︎♦︎♦︎
再びラボへ戻った頃にふと、そういえばストールの刺繍について聞けなかったな…と思い出す。
それはまた今度別の機会に聞いてみることにしよう。
何気なく窓の向こうの景色を見ると暗雲が立ち込め、ポツポツと窓ガラスに雨粒が伝う。
大雨警報を知ってかすでに外出している者はおらず、一足早く店仕舞いしていて正解だったかもしれないなと思った。
「早いとこ切り上げて正解だったな」
「おれも同じことを考えてました」
「もうすぐ荒れるぞ」
「そうですね」
平凡だった日々から一変して今日はバタバタで一日があっという間に感じた。
明日からはまたいつもの日常がやってくる。
嵐の前の静けさ。
世界の色が徐々に褪せ、ただ灰色の静寂だけが残る。そんな時間もおれはすきだ。
to be continued...!
グリグリーズの口調、一人称二人称迷子(◞‸◟)
PS.最初、お団子ツインテだったけど、浴室でグリーズにほどかれてしまったシチュだと思ってください…
(※5話グリ視点)
プリズムタワーの崩壊後は特段ルーティンのようなものはなく、ただただ平凡な日々を送っている。
日が昇れば目覚め街へ出てカフェでの慈善活動をし、そして一日が終わる。帰宅して夜が更けて眠りにつく。その繰り返し。
そんな通り一遍な日常を送っていた。
「今日は夜から大雨らしいぞ」
グリーズがスマホロトムに視線を向けながらそう言った。
ミアレシティでは比較的よく晴れた日が多い傾向ではあるが、たまにひどく荒れる天候の日もあった。
「雨の気配を感じたらきみはボールでお留守番だな、リザードン」
「ガウゥ!」
「グリーズ、いい加減スマホは…」
「はいはい」
ポケットにスマホロトムを雑にしまい、いつものポジションで退屈そうに客の来店を待つ。
午後から天気は下り坂、お客さんの出入りも午前中に集中するだろうか…などぼんやり考えていると、突然自分のスマホロトムが、ふわんっとポケットから飛び出し着信を知らせる。
「(おや…)」
通話を許可し話を聞くと、ヌーヴォカフェ2号店からのヘルプ依頼だった。
《すみません…発注ミスでコーヒー豆のストックを切らしてしまって…在庫余ってたらでいいのですが、分けてもらえませんか!?》
「それは一大事ですね、わかりました。今すぐ届けに行きます」
《ありがとうございます!》
カフェにとってコーヒー豆が無いのは致命的。
多めに見積もっても4、5杯ほどの残量とのことですぐに届けに行かなければならない状況。
「グリーズ!」
「どうした?」
事の顛末をグリーズにも伝える。
幸い我々は2名体制でやっているのでどちらかが一時的にワンオペになるが、店仕舞いまでせずには済む。
「グリーズはうちの大事な看板娘ですから、おれが帰るまでの間店を頼みます」
「はぁ、わかったよ」
「では2号店のフォローに行ってきます」
厄介な客に絡まれて困っているというヘルプは以前何度か経験したが、物資不足のフォローは初めてかもしれない。
前者の場合、決まってグリーズがポケモンバトルで片付けに行ってくれていたので自分はカフェに残りオーダーから提供まで1人でこなす機会もあった。
今回はグリーズを1人残す形になるのでいささか心配ではあるが…彼女もヌーヴォカフェで長く働いてくれている身だ。ひと通りのことはこなせるはず。
♦︎♦︎♦︎
「あ!グリさーん!」
「お待たせしました、いくらか持ってきたのでとりあえず今日の営業はしのげそうですか」
「はい!これだけあれば…大丈夫かと!」
「では…グリーズを残しているので、おれはこれで」
「すみません、本当助かりました…!」
次からは発注の漏れがないよう気をつけてくださいと伝え踵を返した。所要時間にして20分弱といったところだろうか…
雲行きも少し怪しくなってきて太陽はすっぽりと雲に覆われてしまった。
急いで帰ろうと思ったその時、付近のワイルドゾーンエリアが騒がしいことに気が付いた。
「?」
災害や天候の変化に動物は敏感だと昔から言うが、ポケモンもその類でこの後起こりうる変異に何かを察知したというのだろうか…?
なんの気なしにワイルドゾーン12エリアを一望できる所まで歩みを進めると、オヤブン個体のユキノオーが咆哮し、それに呼応するかの如くわらわらと周囲の野生ポケモン達も騒がしくしていた。
「(…あれは、)」
ユキノオーの視線の先には1人の少女がいた。
おそらくポケモントレーナーであろう。
自分も早く店へ戻らなくてはならないことを思い出しその場を去ろうとしたのだが、そのトレーナーは一向にバトルポケモンを繰り出さず、ユキノオーと対峙したままおどおどとしているばかり。
「なぜ戦わない…?」
その様子のおかしさに、もしかすると彼女はバトル初心者のトレーナーなのかもしれないと判断したおれは、一心不乱に彼女の元へ走った。
♦︎♦︎♦︎
「カエンジシ!オーバーヒート!」
「グウォォン!」
カエンジシの攻撃は完全に背後を取った。
虚を突かれた相手は実に脆い。ですがさすがオヤブン個体。
一撃までとはいきませんが、でもだいぶ削れたはずです。
「これで終わりです!
カエンジシ!だいちのちから!」
ーーーーーーーーーー…
ーーーーーーーー…
ーーーーー…
ーーー…
ー…
「よくやりましたね、カエンジシ」
カエンジシをボールに戻し、目の前でうずくまる少女に声を掛けるも反応は無い。
先ほどは遠目からでわからなかったが、手袋もせず両手は真っ赤に悴み、衣類から露出した箇所の凍傷もひどく、こんな雪深いエリアでの彼女の軽装備に驚愕した。
「(早く手当をしなくては……)」
今し方来たばかりのおれですら体感10分もしていないはずだがエリア内の気温差に身体が強張るのを感じていた。
「(ひとまずここから出よう…)」
ワイルドゾーン12のエリア外に出ればいくらか気温も上がるだろう、急激な温度変化も今の彼女には大きな負担になりかねない…丁重に護送しなくてはいけませんね…
♦︎♦︎♦︎
ロトロトロトロト…
「…お?」
《グリーズ!緊急事態です、今日はもう店を閉じます》
「え!?…なんで急に」
《詳しくは合流後…今すぐポケモンセンタープランタン付近まで来てください!》
「え、プランタン…?」
《メディオプラザを南へ直進です!》
「わかった…!ちょっと待ってろ!」
ヌーヴォカフェはキッチンカースタイルで展開するカフェ。いつも運転はおれが担当しているが今ばかりはグリーズしか頼める人がいない。
「…久しぶりの運転だから、ぶつけたらすまない!」
《………致し方ありません…!!》
♦︎♦︎♦︎
10分もせずにグリーズが到着。
良かった、キッチンカーも無傷のようで安心した。
「グリ!なんかあったのか!?」
おれの背に身を預ける少女を見て事の重大さを知ったグリーズは急いで車から降りてきた。
「寒さで衰弱しているトレーナーを保護しました」
「何!?」
「一度ラボに戻りこの子の処置をします!」
「わかった!」
運転は今度はおれが担当し、キッチンカーは二人乗りのため助手席のグリーズには衰弱しきっているトレーナーを抱えてもらい乗車してもらった。
「氷みたいに冷たいぞ!」
「えぇ、おそらく低体温症による身体機能の低下…ワイルドゾーン12エリアで動けなくなっていました」
「はぁ〜?!こんなペラペラの格好で!?」
♦︎♦︎♦︎
ラボに着き、とりあえず暖炉に薪を焼べる。
濡れた衣類から体温を奪われてしまうといけないため、着替えを用意しなくてはなりませんね。
「グリーズ、彼女にきみの服を貸してあげてください」
「わるい、洗濯出すの忘れてて私服は無い」
「なっ…!」
だから洗濯物はこまめに出すようにといつもいつも…!
後回しにしてギリギリまで洗濯を放置する彼女の癖をこの時ばかりは憤懣やるかたない気持ちになった。
「仕方がないのでおれの服を貸します」
「んで、どうすんの?ただ着替えさせるだけでいいのか?」
「…そうですね、患部を温かいお湯で温めたほうがいいかもしれないですね」
「わかった、お湯沸かしてくる」
「お願いしていいですか」
「あぁ」
ラボに連れてきてからも彼女は起きる気配は無く瞼を重たく閉ざしていた。小さく呼吸する音は聞こえていたので少し暖を取れば回復する…と、そう信じている。
「うわっ あ…っちぃ!」
グリーズ……きみに任して本当に大丈夫なのか心配になってきた。だが相手は女性のため異性であるおれが介抱すべきではない。不安だがグリーズを信じよう…。
「グリーズ、くれぐれも熱すぎるお湯を浴びせるのには注意してくださいね…!」
「わかってる…!」
♦︎♦︎♦︎
「終わったぞ!」
「ありがとうございます、グリーズ」
おれの衣類を身に纏った少女はグリーズに背負われた今もなお目を覚ましていない。
「彼女、どうでしたか…?」
「なにが?」
なにって…途中で目を覚ましたとか、外傷は無かったかとか…介抱中に健康状態に異常はなかったかを尋ねているんです…
「意外に胸が大きかった!」
「そういうんじゃなくて!」
きみって人は…!
ひとまず湯冷めしてもいけないので毛布に包みそのままベッドに横になっててもらおう。
「あ、ちょっと髪濡れてるから乾かしてやらないとまずいかも」
「え?」
「あたしはもう疲れた!グリがやりなよ」
そう言ってグリーズは彼女の衣類を持ち洗濯室へ向かった。
暖炉の炭がパチパチとはじける音が2人きりの空間にやたらと響いて感じた。
ドライヤーの音で起こしてしまうかもしれないという一抹の不安はあったが、タオルドライでは冷えにつながってしまうし…と心の中で葛藤しながらも一番弱い温風を当て湿った髪を乾かすことにした。
ソファに身体を預けさせ、丁重に、起こしてしまわぬように。
乾かしている最中も、今ここで目を覚ましたらひどく混乱させてしまうな…など考えてしまい気が気でないまま作業を続ける。
指通りの良い柔らかい毛質…色素の薄いその髪は毛先にいくほど細く光に透けるような髪色、きれいだな…
♦︎♦︎♦︎
ドライヤーを掛けている最中も彼女は目覚めず、髪は完全に乾かせたのでベッドへ移動させる。
首元まで布団をかけ、冷気が入らないように。
「(そういえば…あの子の巻いていたストールにMZ団のロゴが刺繍されていたな)」
既存のメンバー以外では見たことのない顔だが…新しく入団でもしたのだろうか…考えてもわからないことは彼女が目覚めた時に聞けばいい、そう自己完結しグリーズにと淹れたコーヒーを冷めてしまう前に自分で飲み干した。
『ん…』
「!」
布団から出ている顔だけをきょろきょろと動かし状況を把握している。だが状況の整理がつくわけはなく、ここはどこだと不思議そうな彼女。
「気がつきましたか」
『!』
声のしたおれの方に顔を向け、慌てた様子で上体を起こす彼女はじっくりと俺の顔を眺めたのち、あの…と声を発した。
「まだ無理に動かない方がいいです」
ベッドから身を乗り出す彼女を制止させる。
今の今まで衰弱しきっていた身体だ。すぐに動き回っては危ないのでもう一度ベッドへ促す。少なからず動けるまでに回復したようで安心した。
「凍傷がひどかったので応急処置ではありますが、濡れた衣類は今乾かしているところなので身体が温まるまで、もうしばらく安静にしていてください」
彼女はひどく不安と混乱の入り混じった表情をしていたので、落ち着かせるように微笑み、温かいコーヒーを振る舞おうとカウンターへ移動する。
「コーヒーは飲めますか」
『はい…』
「ミルクと砂糖は」
『どちらも多めが…好きです』
「かしこまりました」
オーダー通りの甘くてまろやかなカフェラテ。
どうぞと手渡せば、お礼を言ってからマグカップを受け取り何かに気づいたように一瞬不思議な間があった。
ごくりと飲み込む音がして美味しそうな表情を浮かべた後、表情がまたしても一変。
今度は視線がきょろきょろと焦点が合わず焦っているかのような…かと思えば青ざめたり…今度は顔を赤らめている…
体調が本調子ではないのだろうが、ここまで起伏が激しいとさすがに不安になる。
「顔が赤いですね、発熱でしょうか…」
『ち、ちがいます…!』
これはそういうのじゃなくてその〜…と慌てふためき、もじもじと着用しているおれの服の裾をもう片方の手で触る素振りを見せた彼女を見てピンときた。
もしかしたら…着ていた衣類を脱ぎ着させたのがおれだと思っている…?
「念の為のお伝えですが、きみの着替えや介抱については彼女が対応していますのでご安心ください」
タイミング良くグリーズが彼女の乾いた衣類を持って登場したので誤解がないよう説明した。
すると心底ほっとしたように胸を撫で下ろした彼女は遅れてしまったが…と自己紹介をしてくれた。
カナタと言うそうだ。
自然とおれもグリーズも互いに自分の名を名乗る。
改まったようにカナタは、着用したおれの服を洗ってから後日返すと言った。
別におれとしては洗濯せずとも適当なタイミングで返してくれればよいと思ったのだが、その会話のラリーを鬱陶しく思ったグリーズにより今すぐ返却する流れになった。
♦︎♦︎♦︎
ラボに滞在し1時間弱。
すっかりカナタの容態も良くなり念の為、最寄りの場所まで見送ることにした。
その道中でカナタを救出するまでの経緯と、おれ達が何者かなどの話をした。
会話の流れで彼女は雪深い地域で生まれ育ったから寒さには耐性があったので…と苦笑する。
それにしても無茶をし過ぎているので注意喚起をしつつ、目的地にはあっという間に到着。
このご恩は絶対忘れません、そう言って彼女とはまたヌーヴォカフェで会おうと別れた。
♦︎♦︎♦︎
再びラボへ戻った頃にふと、そういえばストールの刺繍について聞けなかったな…と思い出す。
それはまた今度別の機会に聞いてみることにしよう。
何気なく窓の向こうの景色を見ると暗雲が立ち込め、ポツポツと窓ガラスに雨粒が伝う。
大雨警報を知ってかすでに外出している者はおらず、一足早く店仕舞いしていて正解だったかもしれないなと思った。
「早いとこ切り上げて正解だったな」
「おれも同じことを考えてました」
「もうすぐ荒れるぞ」
「そうですね」
平凡だった日々から一変して今日はバタバタで一日があっという間に感じた。
明日からはまたいつもの日常がやってくる。
嵐の前の静けさ。
世界の色が徐々に褪せ、ただ灰色の静寂だけが残る。そんな時間もおれはすきだ。
to be continued...!
グリグリーズの口調、一人称二人称迷子(◞‸◟)
PS.最初、お団子ツインテだったけど、浴室でグリーズにほどかれてしまったシチュだと思ってください…
