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6/11 舌先



れろり、

 長い舌が文次郎の首筋を撫でる。
濡れた感触は背筋をぞくりと粟立てるに十分であり、そして欲を掻き立てるにも十分である。
「仙蔵、」
 艶を帯びた声で名を呼んでも返事はない。
寝間着を肩から落とされて、晒された背中に向かって舌が下りる。
肩甲骨の真ん中の窪みを丁寧に舐られて、ひくりと腰が震える。
「なあ、」
 切なげな声は舌以外のものを強請るものだと舌の持ち主はよく知っているはずなのに、言葉も、指先も、なにも文次郎には与えられない。
 舌だけでなぞられるもどかしい刺激が続く。
腰にある古い傷口を舌先が何度も繰り返しつつく。
今更広がるわけでも血が出るわけでもないそこは、濡れた感触にほんのり色づく。
 もう傷ついてから十年以上経っている。
卒業してからすぐに負ったその傷を手当てしてくれたのもこの舌の持ち主であった。
 若い頃よりも前戯が長くなってしつこくなっていたのはなんとなく互いに体力がなくなったからかもしれない。
早急に先を求める浅ましさも文次郎にはいい年をして、と恥ずかしく思えてくる。
 言葉もなくひたすら身体を舌で堪能されるのは恥ずかしい。
もちろん数えきれないほど身体を重ねて、今までだって幾度もこのような戯れに付き合ってきた。
そのたびに恥ずかしいから嫌だと言っても、聞き入れられなかった。
在学中から変わらない関係は今でも続いていて、傍若無人で繊細な美しい男の気まぐれに弄ばれることだって、何度も繰り返している。
ただ、今日のような言葉のない愛撫は、文次郎の覚えている限りであまりいい兆候ではなかった。
「仙蔵、大丈夫だから」
 言葉をくれないときは、弱っているとき。
情事の時は文次郎の羞恥を煽るように何度も愛を囁く男が言葉を発さないのは、不安の裏返しだった。
もうすぐ、長期の潜入忍務。行先は、残忍な忍者隊を率いることで有名な城。
二人共無事五体満足で帰ってくる保証はない。
今までだって何度もそういう忍務を繰り返してきた。忍びという職業に絶対はない。
その証拠に、文次郎の腰にある傷はもう少し深かったら命があったかはわからないと言われた。
「この傷を負った時も、お前は同じことを言って出て行っただろう」
 ようやく口に出した言葉は、文次郎の予想通りの不安。
「そうだな。安心しろ、なんて言っても信用はねえだろうな」
「当たり前だ」
 舌が、さらに下に降りる。
「今度傷を負って来たら、縛り付けて二度と忍務などに出られないようにしてやる」
 足首まで到達した舌に、仙蔵の執着を垣間見る。
仙蔵が本当はとうの昔から文次郎を縛り付けて、自分だけの物にしたいのだとは知っていた。
文次郎だって、幾度となく同じことを思った。
それでも、互いに忍びであることを矜持に生きている。
そういう相手が愛おしいのだ。
だから、どれだけ不安でも送り出し、送り出されるのだ。
 舌での愛撫に満足をしたのか、今度は指先が文次郎の胸をするりと撫でる。
「ん、」
 不安を隠すように文次郎を苛む指先に身を委ねた。

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