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「また延滞か」
「う・・・」
普段生真面目な潮江文次郎の悪癖の一つに、図書の延滞がある。
図書委員会の長である中在家長次もいつも頭を悩ませている問題だ。
「そんなに延滞するのによくぞ毎回図書室で本を借りようとするな」
「仕方ねぇだろう。最近この作家にはまってるんだよ」
そう言って文次郎が見せてくれたのは以前流行っていたミステリ作家。
文次郎が読む本のジャンルはいつも様々で、以前は長次に勧められたと言って文次郎の雰囲気からは想像できない程に可愛らしい恋愛小説を読んでいたこともあった。
「また長次のセレクトか?」
「いや、今回は与四郎」
「ほう」
学校の違う錫高野与四郎と一体どこでそのような話になったのやら、唐突に出てきた名前を仙蔵は放ってはおかなかった。
「錫高野とはまた珍しい。どこで会ったんだ?」
「いや、LINEで与四郎と盛り上がってな。最近お勧めで色んな人に勧めて回っているらしい」
「そうか」
仙蔵も同じように与四郎とはLINEで繋がっているが、そのような布教活動には合っていなかった。
あの食えない口調と笑顔の下に隠れた下心には気づいていないのだろう。
哀れ錫高野。
そう思ってももちろん仙蔵はそれを文次郎に教えるようなことはない。
「私にも教えてくれないか」
「あぁ。いいぜ」
にかりと笑う文次郎の本棚には以前長次が勧めた作家の本。
文次郎は一度ハマると同じ作家を読み続け、飽きたり読む本がなくなったりすると違う作家に移動してまた同じ作家を読み続ける。
長次の恋愛小説、伊作の医療もの、留三郎の冒険漫画、小平太のスポーツ漫画、新しく増えたのは錫高野のミステリ。
図書館で借りて済ますもの、ハマって購入に至るもの、そもそも図書館では手に入らなかったもの、本棚にあるのは文次郎を愛する男たちの下心の成れの果て。
「文次郎、今度私のお勧めの本も貸してやろう」
仙蔵が勧めるのはサイコサスペンス。それも愛しい相手の為に狂った男の末路を描いた小説。
仙蔵がその小説の主人公のようにならないかは、文次郎次第である。

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