6/5 夢の背中



「は、」
文次郎の身体が跳ねる。
布団の上で踊るように腰をくねらせる文次郎の姿は、仙蔵の欲を高めさせた。


***


「夢、か」
自室で目が覚めた仙蔵の独り言が響く。
本来衝立の向こうで寝ている筈の文次郎は、委員会なのか鍛練なのか、有難い事に不在であった。
「どういうことだ」
同室の男は自分よりも大きな身体を持った老け顔で柔らかさの欠片もない男である。
そのような男を相手に、何故あのような夢を見たのか仙蔵には全く心当たりがなかった。
「夢見が悪い、とはこのようなことを言うのか」
そうは言っても仙蔵も男。あのような夢でも下着は汚れるというもの。
それが何よりも腹立たしい。
「第一、いくら夢だとしても美化されすぎてやしないか」
夢の中の文次郎を頭の中に思い出す。
程よく筋肉の付いた背中が震えて、両の手は布団を掴んで快楽に耐える。
髪から覗く耳は赤く染まり、薄く開いた唇から漏れるのは吐息。
見えない表情もその様子で想像がつく。
きっと潤んだ瞳と赤く染った頬。
形の違う両眼は羞恥に耐えるように閉じられているに違いない。
そこまで考えて、再び仙蔵は自らの夢を頭から追い出そうと首を振った。
自身の同室である男は、そのような立場に甘んじる男ではないはずだ。
あの夢で男を組み敷いていたのは確かに仙蔵自身で、しかし文次郎は仙蔵よりも力も強く身体も大きい。
そう簡単にあのような状況に持ち込めるはずが無い。
「しかし、薬でも使えば出来るかも知れんな」
とはいえ文次郎は同室であろうとも仙蔵を信用はしていない。
いや、付き合いが最も長く、最も近くにいるからこそ仙蔵から気軽に食べ物を貰うようなことはしない。
信頼と信用は別物である。
「面倒なことだ」
誰かに協力を求めるにしてもこのような事を頼めるのは伊作くらいしかいない。
しかし伊作も文次郎からは警戒されている。
では小平太はどうだろうか、面白半分で手伝ってくれるかもしれない。
最も確率が高いのは小平太である。
なんと言って小平太に協力をさせようかと考えたところで、仙蔵はあの夢の中の文次郎の姿を現実に見てみたいと思い始めていたことに気づいた。
恋情など、愛情など今まで仙蔵は文次郎に対して持ったことは無かった。
それなのに、一体どういうことなのだろう。
「悪夢、か?」
それとも正夢になるのだろうか。
夢の続きはどうなるのだろうか。夢で見えなかった表情は、本当はどうなっているのだろうか。
布団で官能的に踊る男の背中を思い出しながら、仙蔵は夢の続きを見るための作戦を考えることにした。

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