6/13 雪の朝は音も無く
音が吸い込まれる。
そんな感覚になった。
早朝鍛錬の為に支度をして、長屋を出ると外は一面の銀世界であった。
下級生たちが喜びそうなその雪の絨毯はまだ薄暗い今の時間帯では誰の足跡もない。
「美しいな」
背後から、寝ているはずの同室の声がした。
文次郎が動く気配で目を覚ましたのだろう。
「仙蔵、悪いな。起こしたか」
「まぁ普段ならば私の安眠を妨げたことに文句の百や二百は言ってやるところだが、この雪景色に免じて許してやろう」
「百や二百が勘弁して貰えたなら雪に感謝しねぇとな」
起こした申し訳なさと説教を回避した安堵感に苦笑いをする。
仙蔵の小言は長いのだ。
「せっかくの雪だ。少しは楽しむか」
「そうだな」
一年生の頃のような無邪気さはなくとも、唯一変わらない楽しみ方がある。
「やるか」
二人で手を繋いで廊下から雪に向かって飛ぶ。
何も無かった真っ白な雪に足跡がついた。
向かい合って小さく笑う。
「一番乗り」
「だな」
静かな雪の世界に初めて降り立った六年前の冬、どちらが先に雪に降り立つか揉めて、結局この方法にした。
二人で同時に雪を踏みしめて、それから六年。雪を踏みしめる時は二人同時に、の決め事は今でも守られている。
そして、二人でまだ薄暗い雪の世界を踏みしめて進む。
雪の世界は足音も、呼吸も、言葉も、全てを雪の中に閉じ込めてくれる。そんな錯覚に陥る。
「文次郎」
「仙蔵」
互いの名を呼ぶ声が、静かに響く。
「 」
小さく呟いた愛の言葉も、雪に閉じ込められて永遠に凍りついてしまえと願った。
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