6/3 風邪の功名



頭が痛い。悪寒がする。原因はわかっている。昨夜の鍛錬だ。
「文次郎、」
そろそろ暑くなってきたから大丈夫だろうと行った池での鍛錬がきっと原因だろう。
「文次郎、」
けだるい身体を引き摺って文机に向かう。
「ばかもんじ」
「あぁ?仙蔵か」
振り返ると至近距離に仙蔵がいた。
一瞬留三郎が喧嘩でも売りに来たのかと思ったが、どうやら仙蔵が声を真似たらしい。
確かに馴染んだ気配であるが、ここまで近付かれて気付かないとは不覚。
この程度の体調不良で気配も読めなくなるとは、忍として失格である。
「文次郎、お前風邪引いてるだろう」
「なんのことだ?」
「無駄だ。簀巻きにされたくなければさっさと伊作のところへ行ってこい」
物騒な仙蔵の宣言をスルーして再び文机に向かう。
この体調では外での鍛錬をするのは自殺行為だと知っている。
だからこそ室内で本日の復習でもと文机に向かっているのだから、これ以上は仕方がないだろうと思うが、仙蔵はそう簡単に許してはくれない。
「百万歩譲って伊作のところへ行かなくてもいい。せめて寝ろ。今すぐに寝ろ。それが出来ないならば永遠の眠りにつくか強制的に活動停止させてやろう」
「多分最後の選択肢はどちらを選んでも同じだな?」
「当たり前だ。とにかく寝ろ」
「嫌だ」
「許さん。これ以上駄々を捏ねるのであればその唇を塞いで息の根を止めるぞ」
「ふざけんな」
「そちらこそふざけるな」
段々面倒になってくる。一体俺は何故こんなに意固地になっているのだろう。
わからなくなってくる。
「文次郎、お前いい加減にしないと抱き潰すぞ」
仙蔵の目が段々鋭くなってくる。
ここらが潮時だとは思うが、なぜだかそう簡単にはいと頷く気になれない。
「やだ。まだ寝ない」
「寝ろ。お前もう限界だと気づかないのか」
「知らん。限界なんかじゃない」
「いい加減に本気で寝ろ」
仙蔵の強い口調と共に唇が降ってきた。
ぬるりと長めの舌が口の中を侵す。
「ん、ふ、」
ぴちゃぴちゃという音と共に仙蔵の舌先から何か、小さな丸薬のような物が口移しで含まされた。
同じく舌を使って押し返そうとするも、ただでさえ体調が悪く呼吸が少ししづらいところに長い口付け。
酸欠で頭がふわふわして、押し返す力も入らなくなってきた。
「ん、ちゅ」
口の中で溶け始める丸薬に抵抗を諦める。
この薬がなんだか、舌を刺激する味でとうにわかっている。
俺が諦めたことに気づいた仙蔵は唇を離した。
「ゆっくり眠れ」
やはり。前にも飲まされた伊作特製睡眠薬入り風邪薬。
くたり、眠気と酸欠で力の抜けた身体を仙蔵に預けた。

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