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もっと知りたい



蜉蝣の兄貴は、凄い。
何が凄いと言えば、強い。
そして舵取りという役職に就いていながら、威張らない。
弟分たちにも優しく、しかし厳しい。
海の男として、尊敬出来る男だ。
それを、その蜉蝣の兄貴を、尊敬以外の感情で見るようになったのはいつのことだろう。
かっこいい、あの人のように強くなりたい、追いつきたい、そう思い続けていたのに、いつからか船にいる時の勇ましい姿、酔っ払った時の楽しそうな笑顔、仲間を海の底に見送った時の悲痛な顔、疲れている時にふと見せる色っぽい表情、色んな顔を見たくなった。
「だから、兄貴、」
「何がだから、だ」
酒に酔っている兄貴を介抱するふりをして連れ出した。
兄貴だってあれくらいの量で酔っちゃいないし、俺だって酔っ払いの介抱なんかする質じゃない。
分かっていて着いてきてくれたのだ、期待をしてもいいだろう。
「だって兄貴の色んな顔が見たいんです」
夜の顔だって、知りたい。
「まったく、油断も隙もねぇな」
付き合い始めた時だって、兄貴は弟分の我儘くらいに思っていたんだろう。
今の今まで、ずっとそう思っていただろう。
「好きな人の色んな顔が見たいと思うのは、変ですか?」
「その相手がこんなごつい男じゃなきゃ、当たり前のことだろうな」
「でもそんな兄貴が好きなんです」
「らしいな」
「兄貴は、嫌ですか?」
「嫌だったら付き合う前に正気になれって怒鳴って殴ってる。好きじゃねぇのに付き合うほど酔狂でも暇でもねぇよ」
それは、つまり、
「兄貴も、ちゃんと俺のこと好きなんですか?」
好きです、俺と恋仲になってくださいと夜の浜辺で告白して、抱きしめて、「おう、そうか」といいのか悪いのか分からない返事を貰った。
それでも、勝手にいい方に取って、付き合い始めた。
言葉をちゃんと貰ったことはなかった。
「だから、嫌なら断るって、」
「好き、なんですか?」
ちゃんと、嫌じゃない、じゃなくて、好き、が欲しい。
「ちゃんと、好き、だよ。これでも」
顔を真っ赤にした兄貴が可愛い。照れる兄貴、また新しい兄貴の顔が見れた。
「じゃあ兄貴、もっと色んな顔、見せてください」
顔の赤い兄貴を押し倒す。
兄貴の身体が、俺の体の下に、横たわる。
強いはずの兄貴が、これを許してくれている。
言葉以上に、愛されていると知った。

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