春の訪れ
春とは、繁殖期である。
それは孫兵が常々言っていることだ。
猫も爬虫類も等しく訪れるそれ。
それは、孫兵にとっては人も同じらしい。
「だから左門、僕と番になってくれないかな」
女の子であれば誰でも見蕩れるような笑みを浮かべる男のなんと美しいことか。
これがただ付き合って欲しいということであれば左門もきっと諾と答えやすいのだろうが、番になってくれとはこれまた。
そしてここは後輩や先輩、先生方までいる食堂である。
孫兵からすればほかのオスに対する牽制のつもりであろう。
いかにも孫兵らしいと左門は笑みを浮かべた。
進退疑うなかれ
自分の決断を信じることが左門にとって最も大切な価値観なのだ。
それこそが、左門の強みである。
そして、その決断に従うのであれば、答えはとうに決まっている。
「 」
昼時の食堂に、春の音が響いた。
1/1ページ
