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子供の亡霊



この片目を失った時、自分よりも死にそうな顔をしていた子供を思い出す。
船で怪我をする度にあの時の子供の顔がちらつく。
「兄貴、また怪我をしたんですか」
口煩い男はあの死にそうな顔をした少年の面影を残しながら、逞しく育っていった。
「お、おぉ」
誰から聞いたんだか、と呟くと鋭い目がぎらりと光る。また無茶したんですか、という言葉は音にならなくとも聞こえるようだ。
「手当は終わってますか?」
かすり傷だ、なんて反論は許してもらえないだろうなと思う。
「まだだ」
後でやる、を含ませたつもりだったが、舳丸には面倒だからやめとく、にでも思えたのだろうか、もう一度あの目でぎろりと睨まれる。
あの日からまるで俺の保護者のようになっている舳丸を見て、疾風なんかは「おっかない嫁を貰ったみてぇだな」と笑っていたので軽く殴っておいた。
舳丸の鋭い目は怒っているようでいて、しかしいつも自分が怪我をしたんじゃないかと思うほどに痛そうな色が含まれている。
「お前もこの間でっかい傷こさえてたろ」
人のことを言っておきながら、無茶をするのは舳丸も同じ。海の男がいちいち怪我なんぞ気にしていたらやってられないと、舳丸自身も身をもって知っている。
「兄貴みたいな無茶はしません」
嘘つけ、顔にでっかい傷だって作りやがって、とは言わない。
義丸とはまた違った方向で整った顔は中々気に入っていただけに、少し残念に思ったのだ。
「とりあえず傷口見せてください」
だんだん平坦になる声に、あぁ、そろそろ引き際かと大人しく傷口を見せる。
他の船とやり合った傷は左肩の皮膚を薄く裂いて、肉までは達していないからか血も軽く滲む程度。
「ほら、そう大袈裟でもねぇだろ」
舳丸が思っていた以上に軽い傷だったのだろう。目がほんの少し、緩む。
「それでも兄貴が怪我をする姿は、もう見たくありません」
無茶な我儘を言っている自覚はあるのだろう。船の上でそんなことは考えていられない。
でも、あれから大きな怪我は減ったはずだ。
「分かってるよ」
俺だって、あの死にそうな顔をした子供にはもう二度と会いたくない。

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