聖域
「そういう思いで触れてしまったら、消えてしまいそうで怖いんです」
不破からそう告げられたのは付き合ってから一週間のことだっただろうか。
委員会の後輩で、迷い癖はあるがいざとなったら大雑把で、そういう男だからいざ告白も迷いに迷った末に勢いでしたのだろう。
それでも私は嬉しかった。
それから一週間、不破と二人で町に出掛けたり、委員会後に逢引をしたりもした。
当然そういう雰囲気にもなったこともあるが、全て"雰囲気"止まりであった。
そして業を煮やして本人に直接、問いただしたのだ。
「私とて男だ。欲が無い訳では無い。ただ、男の硬い体が嫌なのだとしたら、私はどうしたらいい」
そう言った時の答えが、冒頭のものである。
「僕は中在家先輩を愛しています。だから告白をしたのに、なんだか、そういう風に触れたら穢れてしまいそうで、」
不破の言葉を噛み締める。
不破は私を愛すると同時に純粋で神聖なものと勘違いしているのだ。
もちろん私はそんな男ではない。
それを知って不破がどういう風になるのか。
幻滅するのか、そうでもないのか、事実を知りたくなった。
「不破、」
耳元で、小さく小さく、もとより聞こえ辛い声を更に引き絞って、他の誰にも聞こえぬように、しかし不破の脳髄に注ぎ込むように、囁く。
「私は、内腿に黒子が二つ、並んでいるそうだ」
確かめてみたくはないか、淫らに、注ぎ込む。
ごくり、唾を飲む音が聞こえる。
あともう少し、
耳朶に少し歯を立てて、舌先で水音を立てて、欲を煽る。
内腿が、ふるりと震える姿を見せる。
「なかざいけ、せんぱい」
声音に熱が籠る。
おずおずと、緊張した指先が袴越しに内腿に触れた。
「ここ、ですか?」
触れた指先に、そっと私の手を重ねる。
「ここ、だ」
もっと、奥。
秘所に近しいそこへ、指先を誘い込む。
「ここ、」
直に触れてみたいだろう?
最後にそう囁いたその瞬間、指先がそのまま、袴の帯を解いた。
堕ちた。
純粋で美しく、穢れないのは私ではなく不破だ。
それを穢した喜びを噛み締めながら、拙い指に身を委ねた。
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