聞いてくださいタカ丸さん!
「守一郎、」
付き合って、就職して、同棲をはじめて、早2ヶ月。
そういう雰囲気になったことがない訳では無い。
でも、なんだかんだで避けてきたこの行為。
「三木ヱ門、待って、」
こう言えば優しい三木ヱ門が無理をしないことは知っているけれど、ほんの少し、残念そうな悲しそうな顔をするのも知っていた。
それでも、その優しさに甘えさせてもらっている。
「嫌な訳じゃないんです」
タカ丸さんはにこにこ聞いてくれる。
突然電話をした俺に「うちにおいで」と言ってくれたタカ丸さんはやっぱり美容師さんならではのコミュニケーション能力と歳上の包容力を感じる。
「三木ヱ門は優しいですし、今だって俺が嫌だって言ったら無理強いは絶対にしない。何度も言う訳でもない。でも、怖いんです」
「守一郎は何が怖いの?」
「嫌われるのが、怖いです」
「三木ヱ門が何か言ったの?」
「いえ、なんにも。いつだって三木ヱ門は優しいし、真面目だし、好きだ、って言ってくれます」
でも、怖い。
あの綺麗な顔の三木ヱ門が、俺を抱く姿を想像する。
「三木ヱ門は綺麗だから、失望というか、しちゃうかなって」
俺は綺麗でも、可愛くもない。
三木ヱ門みたいにキラキラもしてないし、高校生の頃に言われてきた「アイドル学年」の枠から唯一外れてきた人間だ。
「なんか、そういう雰囲気になって、いざ三木ヱ門が我に返ったら、って。三木ヱ門には綺麗でキラキラした女の子の方が似合うのに、って、俺自身が思っちゃって。俺自身がなんか、不釣り合いなのを突きつけられそうで、」
会社の女の子が三木ヱ門を狙っているなんて話も聞いた。
バレンタインチョコだって、ラブレターだって、高校生のころからたくさん貰っていた。
滝夜叉丸と三木ヱ門は俺では考えられないほどのチョコレートをよく持ち帰っていた。
そのうえ綺麗で、それなのに男らしくて、真面目で、かっこよくて、優しくて、そんな三木ヱ門が好きなのだ。
離れたくない。別れたくない。
「うーん、大丈夫そうだけどねぇ。三木ヱ門は確かにキラキラしてて綺麗だよね。それに頭も良くて、滝夜叉丸ほどじゃないけど自信家だもの。自分と同じレベルの顔やオーラの女の子に今更トキメキもしないんじゃないかなぁ。だから、三木ヱ門が守一郎の事を好きなんだとしたら、顔とか、見た目とか、オーラとか、そんなものじゃないと思うんだけどなぁ」
それに、守一郎だって三木ヱ門の顔が好きになったわけじゃないでしょう?
そう言われて、はっとする。
そうだ。俺だって三木ヱ門の顔や外見で好きになったわけじゃない。
三木ヱ門自身だって顔だけを目当てに近づいてくる女の子たちが好きじゃないと言っていた。
「いつもの守一郎の顔に戻ったね。守一郎だって可愛いんだから自信持てばいいんだよ」
「俺は三木ヱ門みたいに可愛くはないけど、ありがとうございます!」
「ん、もし不安だったら三木ヱ門にそうやって言っちゃえばいいんだよ。きっと三木ヱ門は一緒に考えて、ちゃんと言葉をくれるはずだよ」
ね、と優しく笑うタカ丸さんを見て安心する。
なんだか言うとおりになるような、そんな気がするのだ。
「行ってらっしゃい、頑張ってね」
「はい!ありがとうございました!!」
家に帰って、ちゃんと話をしよう。
もう三木ヱ門が不安そうな顔をしなくてもいいように、ちゃんと話し合おう。
それで、その先は、ちょっと怖いけど、きっと三木ヱ門なら優しく、怖がらないように、大切にしてくれる。
これできっと、怖くない。
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