恐ろしきは
「久々知先輩、タカ丸さんなんですが・・・」
田村三木ヱ門のその一言を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。
「タカ丸さんっ!」
兵助が一人部屋のタカ丸の部屋に行くと、身体を起こして忍たまの友を読んでいる姿を見つけた。
「タカ丸さん、寝てなくていいんですか?」
「うーん、もう痛みも治まったし、伊作くんからもそう酷くないって言われたしねぇ」
驚かせてごめんねぇ、と申し訳なさそうに笑う顔に兵助は内心で腹を立てる。
人の心配をなんだと思っているのだ。
「それでも委員会を休む程度の怪我ではあるんでしょう?」
「伊作くんから一応三日は無理せず様子を見てって言われちゃったからなぁ」
「そうですか」
ほっとした。
保健委員会委員長の善法寺が三日というからには、タカ丸の言う通りそう大きな怪我では無いのだ。
「何が原因でそうなったんですか?」
「えっと、」
ほんの少し歯切れが悪くなる。
「忍務はね、上手くいったんだ。まだ僕はそんなに難しい忍務とかはないし。ただ、帰りにその、」
「何があったんですか?」
「えっと、山賊に絡まれて、」
「それで、怪我をした、と」
「うん・・・ちゃんと山賊からは逃げてきたよ!」
「当たり前です」
もしも逃げきれていなかったらどうなったか、考えたくもない。
タカ丸も忍びになるべく技術を磨いているけれど、まだ十五歳だ。
大人の腕力や狡猾さに晒されて、無事にいられる保証は無い。
「それで、結局その怪我は?」
「逃げきった後に安心して気が抜けて転んでくじきました」
「・・・・・・はぁ」
兵助がため息を吐くと、タカ丸の肩がびくりと上がった。
「怒ってる・・・よね、そんなとこで怪我するなんて、間抜けだし・・・忍たまとして鍛錬してるのに」
しゅん、と効果音でも鳴りそうな姿は兵助よりも体も年齢も大きいはずなのにとても小さく見えて、可愛らしい。
この可愛くて素直な人が、無事で良かった。
「怒ってはいません。ただ、俺も安心して気が抜けたんです」
忍務で委員会を休んでいたタカ丸が怪我をしたと田村から伝えられた時、兵助は生きた心地がしなかった。
確かに田村もそう焦った風ではなかったと、今冷静に考えれば思う。
命に関わるようなことであれば田村があんなに悠長にしていられるはずがないのだ。
自分がどれほど冷静でなかったのか、改めて思い知る。
「本当に、三禁、ですね」
愛しい人のことを思えば、冷静さを失う。
この程度の傷でこの体たらく、いずれタカ丸も本格的な忍務に就く。
そこでもっと深い傷を負うようになったら、万が一、命に関わるようなことがあれば兵助はどうなってしまうのか、考えたくもない。
「ごめんね、」
謝る彼を、抱き締める。
「俺が許す許さないなんてことよりも、タカ丸さん、もっと強くなって、俺が心配しなくてもいいようになってください」
「・・・はい、頑張ります」
「よろしくお願いします。それと、あんまりタカ丸さんが怪我ばかりすると俺の心臓がもたない事に気付いたので」
「うん、僕が兵助くんに滅茶苦茶愛されてることがよーく分かったので、頑張ります!」
「調子に乗らないでください。とりあえずあと三日はゆっくり休んできっちり治してくださいね。そうしたら、俺が鍛錬つけてあげるので」
「兵助くん怖そう・・・」
「タカ丸さんが泣くまでやります」
「鬼畜ー!」
軽口を叩いて笑い合う。
これからもこの時が続きますように、この年上の恋人の笑顔が消えませんようにと願いながら。
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