その口づけの意味は
休日はいつも二人で本を読む。恋人同士で集まってすることがそれか、もっと色気のあることはしないのかと仙蔵に呆れられたが余計なお世話だ。
さらり
頁を捲る音が部屋に響く。背中合わせで本を読むこの時間が好きだ。誰にも邪魔をされない、静かな時間。背中合わせの長次の少し丸まった背中が揺れる。もうすぐ読み終わる時の癖だ。ちょうど文次郎も読み終わる頃だった。二人の読書は大体同じ時間で終わる。
長次がすっと立ち上がった。読み終わったのだろう。文次郎もあと一行。読み終えると書物を閉じた。
「文次郎、」
静かに文次郎の背中に覆いかぶさる大きな身体。加減をしているのか、僅かな重さを肩に感じる。
「文次郎も読み終わったなら、少し、こうしていてもいいだろうか」
「あぁ、好きにしろ。俺も好きにする」
背中の体温を感じながら目を閉じる。眠るわけではない。ただこの空気を壊したくなかった。
そのまま二人ともこの空間に身をゆだねる。文次郎はこのまま眠ってしまいそうだった。
「寝るのか?」
「寝ない。長次と話がしたい」
「そうか」
そう言いながら特に会話をすることはない。
「何を話す」
「何も話さない」
「先ほど話がしたいと言った」
「こうしていれば十分だ。言葉はどちらでもいい」
少し文次郎の語尾がふわふわと浮くような声音になってきた。眠気がそろそろ限界だ。
「文次郎、無理をすることはない。布団を敷こう」
「ん」
長次が身体を離すと、文次郎は名残惜しい気分になる。もう少し長次の体温を感じていたかった。しかし長次の少し暖かい体温と静かな空間に常時睡眠不足の身体が睡眠を欲していた。
長次が敷く布団は一枚。布団に横たえた文次郎の身体に長次の身体がふわりと覆いかぶさる。
「おやすみ、いい夢を」
「おやすみ」
まどろみの中で最後に感じたのは頬に柔らかい感触。恋人らしいことはなくとも、これで十分、腹いっぱいなのだ。
頬への口づけの意味は、さて何だっただろうか
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