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鍛錬不足の彦星



夜空を見る。降りしきる雨粒。
「残念ですねぇ、せっかくの七夕にこんな土砂降り」
にやにやと笑うその顔は借り物。
「ねぇ、潮江先輩は七夕の由来、知ってますよね?潮江先輩は、私の織姫になってくれますか?」
来年の春にこの学園から消えるこの人は約束をくれるだろうか。
「天帝に裂かれるような無様な真似をしろと?」
この人が色恋のために仕事を怠けるなんて、とんでもない。そうではなくて、一年に一度だけでいい、ただ、織姫と彦星のように一目姿を見るだけでいいのだ。
「夢のない人ですね」
それでも、そんなものはおくびにも出さない。いや、出せない。
そんな女々しいこと、この人はきっと嫌うだろう。嫌われたくは、ないのだ。
「放っておけ、性分だ。だいたい会いたければ川を泳ぐなりなんなり方法を考えればいい。鍛錬が足りん」
「彦星鍛錬不足なんですかねぇ」
この人に浪漫を求めたこちらが悪かったのだろうか。いや、鈍い相手が悪いに決まっている。
「違う、お前だ。年に一回なんて殊勝なこと言うな。これからも会いたければ俺を探せばいい。」
「プロになったあなたをですか?」
「お前ならなんとかなるだろ」
私の実力を認めてくれていると思えばいいのだろうか。あまり褒めたりをしないこの人にそう言われることは、素直に嬉しい。
「分かりました。降参です。なんとかして探しますよ。これでいいんでしょ」
「安心しろ、お前にだけに文句言うつもりもねぇよ。二年後は、会いたくなったら俺もちゃんと探してやるから」
二年後、私も卒業した後。きっと私は違う顔だと、この人は分かっている。
顔も何もかも変えて、名前すら残っているか分からない私を探すというのだ。
「会いたくなったら、だからな」
照れ隠しのように言うこの人が、愛おしい。
「私も探すので、すれ違わないようにしないといけませんね」
二年後、七夕など関係なくとも私に会いに来てくれるこの人は、きっとまた照れ隠しで「偶然通った」なんて笑ったりするのだろう。

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