大晦日の雪
2020年最後の日こと大晦日。
文次郎が買い出し、留三郎が最後の大掃除にかかった。
今日は台所と神棚の掃除。終わった頃に、ふと窓の外を見るとちらちら舞う白い雪に気付く。
「あいつ、傘持ってったか?」
歩いて近所のスーパーへ行った文次郎の手に、何もなかった事を思い出す。
折りたたみ傘くらいは持っているだろうか。いや、確か財布と大きなエコバッグだけを持って行っていた気がする。
洗濯物のための天気予報は気にする癖に、妙なところで抜けている恋人を思い出す。
しかし、そんな可愛いところを思い出している場合では無い。
こんな寒い中で傘もなく雪に降られたら風邪を引いてしまう。
年末の大量の買い物にかかる時間を考えれば、まだ間に合う。
荷物は半分持てばいい。
傘を持って、スーパーまで走る。
そして、スーパーについて思い出す。
「あ、文次郎の傘忘れた」
馬鹿である。
いや、焦っていたのである。
入れ違いになっては困る。
でも、雪で滑ってこんな年末に怪我でもしたら目も当てられない。
だから、焦って自分の傘しか持ってこなかった。
これでは天気予報を見なかった恋人を笑えない。
「おい、なんでこんなとこに突っ立ってんだ。掃除終わったのかよ」
スーパーの出入り口に突っ立っていたら、無事待ち人が来た。
しかし、傘は1本である。
「悪い。その、雪が降ってきたから迎えに来たんだけど…焦って、お前の傘忘れた」
怒られるかと、笑われるかと、だんだん声が小さくなる。
しゅん、と頭を下げると、頭にふわっと、柔らかい感触。
「ありがとな」
入れてくれ、そう言って文次郎が傘に入り込む。
両手いっぱいの荷物のお陰で、体の半分以上は傘の外。
「片方持つわ」
文次郎の左手の荷物を右手で受け取る。
これで、二人の体が傘に入り込む。
「じゃあ帰るか」
相合傘で帰路に着く。
家に帰ったら炬燵に火を入れて、蜜柑を食べながらぐだぐだとするのだ。
「あぁ、帰ろう」
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