心中と遺言
「死ぬなら、お前と一緒がいいなぁ」
「ふざけんな、まだ死ねん」
学園の試験中であった。
雨で泥濘んだ地面に足を取られた留三郎が崖から足を滑らせたのを助けるべく走ったのだ。
結果的に敵の忍びの刃を背中で受け止め、二人揃って崖下の川に真っ逆さま。
運良く深い部分で、地面に叩きつけられる事態は避けられた。
「とはいえ、体は動かんな」
「あの高さだからな。水に叩きつけらただけで凄まじい衝撃だ」
留三郎と違い、背中に刀傷もある。
先に逝くなら自分だと、文次郎は理解していた。
「死ぬなら俺と一緒がいいと言ったな。本気か?」
「まあな。このままならその願いは叶いそうだけどな」
「あほ。まだ諦めんな」
声を出していなければ、意識を失ってしまう。
力を振り絞って、会話をしていた。
「さっきからあほだ馬鹿だって、わかってんだよ。足滑らせてすっ転んだ阿呆は俺だ。だから、俺だけで良かったっつーのに」
「…、好きにさせろ。俺も、今死ぬならお前と、って思ってんだよ」
「そうかよ。お前、結構俺のこと好きだったんだな」
「そうだな、遺言託そうと思うくらいには、な」
「聞かねぇぞ」
少しずつ、意識が遠のく。
今言わなければ、終わってしまう。
「聞け」
「やだ。一緒に死ぬ相手に遺言託すな」
「分かってんだろう。お前より、多分、」
「知らん。聞かねぇ、」
「なあ、留三郎、」
「ふざけんな、俺だって遺言、じゃねぇ、お前に言いたいこと、あるんだから、な」
泣くな、体力を消耗する。
一分、一秒でも長く生きれば、あいつらがきっと、
「遺言は、また今度聞いてやるから、先に俺の言うこと、聞けよ」
「…」
もう、眼が、霞んで
「 」
聞こえた言葉と、俺達を呼ぶ大きな声、少なくとも留三郎は助かるだろう、安堵とともに瞼を閉じた。
***
「それで、お前の遺言は?」
「さあな。次に死にそうなとき、まだお前と一緒でもよかったら教えてやるよ」
笑い合えるこの時が、いつまても続くと信じて。
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