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俺もなんて、死んでも言わない



栗拾いで勝負だ。

そう言い出したのは、留三郎の方であった。
確かに山は栗の時期、山に行けばいくらでも転がっていることだろう。
しかし、用具委員会は例年委員会で塹壕埋めと称して栗拾いをしていたと文次郎は記憶している。
「俺はいいが、委員会はいいのか?」
後輩たちも楽しみにしていることだろう。
それを取ってしまうことに罪悪感を覚える。
「大丈夫だ。用具委員会は近場の裏山にいつも決めている場所がある。そこじゃなくて、裏々々山で大きな栗の木を見つけたんだ」
留三郎の自慢げな言葉に、そうか、と頷く。
「裏々々山か」
少し距離はあるが、六年生だけであれば大した距離にはならない。
「あぁ、裏々々山だ。道中で数を傘増ししないために、二人で現地まで行くぞ」
「お前との勝負にそんな卑怯な手使うかよ」
心外である。
文次郎は留三郎との勝負は常に正々堂々と受けているのだ。
忍務であれば、実習であれば必要な程度の卑怯は行う程度の柔軟性はある。
しかし、文次郎にとって留三郎との勝負はそういうものでは無いのだ。
「分かってるよ。念の為だ、念の為」
妙に拘る留三郎に疑念を持ち、そして、ここ数日自分が何をしていたかを思い出した。
「留三郎」
強く名を呼ぶと、留三郎の目が泳いだ。
これは、文次郎の思った通りである。
「一緒に出掛けたいなら、素直に言え」
文次郎はここ数日委員会が忙しくて、部屋にすら戻っていなかった。留三郎の顔を見るのすら一週間ぶりのことだ。
留三郎がばつの悪そうな顔をした。
「悪いかよ」
「悪いとは言ってねぇ。受けて立つぞ、栗拾い勝負」
二人で仲良く手を繋いで、はなんだか変な気がするが、勝負ならば受けて立とう。
それが、文次郎と留三郎の関係なのだ。
「学園中に栗ご飯が振る舞えるほど取って、そんで、夜はもうひと勝負、付き合ってやるよ」
文次郎が挑発的に笑えば、ばつの悪そうな顔が一変、本当に悪そうな顔になった。
「言ったな。会えなかった一週間分、覚悟してろよ」
早まったかと思うが、たまには相手をしてやらないと、と文次郎は己の心に言い訳を付け加えた。

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