二人旅
「文次郎、町行こうぜ」
「おう、俺も用事があったからな。いいぞ」
久々にお互いに委員会も実習もない休日、たまには恋人同士で出掛けようかと声をかければ、いつもならばなんだかんだと文句を言いつつ着いてくる文次郎が珍しく二つ返事で合意をした。
ならば気が変わらないうちにと出門表を書いて早々に二人連れで出掛ける。
「空模様が怪しいな」
町の方の空には暗雲が立ち込め、いつ雨粒を落としてやろうかと意地の悪い笑みを浮かべていた。
またかよ。
犬猿の仲の二人が出かけると雨が降る。
毎度のことだ。
友人同士でも、恋人になった後でも変わらない現実。
「さっさと済ませて降る前に帰るか」
残念そうに留三郎が残念そうに呟く。
たまにはゆっくり買い物をして、うどんでも食べて、案外甘味好きの文次郎と茶屋でだんごでも食べて、そんなことを考えていたのに。
そんな思いが声に出ていたのだろうか、文次郎が怪訝そうな顔をして留三郎を見ている。
「何を言っている。雨が降ったら雨宿りすればいいだろうが」
馬鹿にするような呆れたような声がいつもならば腹立たしいのに、言葉の意味を思えば留三郎の心は飛び上がらんばかりに喜んでいた。
「ほら、行くぞ」
急かす言葉に素直について行く。
雨宿りなんかすれば帰りが遅くなるのに、それを厭わずに居てくれるというのだ。
「おう。文次郎はどこに行きたいんだ?」
「筆を買いたい」
先程までの沈んだ気持ちはどこへやら、二人の道行きはのんびりと進んでいった。
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