暖炉
暖炉の中でぱちぱちと薪が爆ぜる音がする。
「あーあったけー。暖炉正解だったろ?」
「夏の間の薪割り作業もいい鍛錬になるしな」
「鍛錬バカ」
この家を設計したのは留三郎である。
留三郎はその道のプロであるし、文次郎としても文句は何一つなかった。
その時に案として上がったのが暖炉である。
最初は費用や薪の準備の手間を考えて悩んだものの、結局留三郎のプレゼンの上手さに負けて暖炉をリビングにつけたのだ。
「今日こいつでピザ焼いていい?」
「おう」
器用な留三郎はさすが料理も上手である。
文次郎の平日朝早くに出て夜遅くに帰る生活上、家のことは留三郎のおんぶにだっこだ。
「この音とか火の暖かい色とか、こういうの憧れてたんだよな」
この家で過ごす初めての冬。
同棲のきっかけは突然であった。
長く遠距離恋愛をしていた文次郎が、とうとう地元に戻ってきたのだ。
これにて5年の転勤生活に幕を閉じ、会社が転勤制度の廃止を叫んだのだ。
これにて文次郎は地元に永住が確定したのである。
その連絡を恋人である留三郎にしたら、第一声が「お前と住む家を作りたい」である。
建築士のプロポーズとはこういうものなのだろうかと思いつつ「個人の書斎と大きめの本棚だけは頼む」と本好きの文次郎が返事をすると、電話口から声とも悲鳴ともつかない音が聞こえた。
そんなこんなでこの新居、費用は文次郎が多めの持ち出し、留三郎はその分を技術と知識と社割で埋めた。
「暖炉入れる時に絶対ピザ焼きたいって思ってたんだよなー。チーズと野菜たっぷりのやつ焼くから文次郎パスタ頼む」
「おう」
家を建てる時も、料理をする時も、やいのやいの揉めながら二人で一緒に。
文次郎の事情で遅くなってしまった同棲は、まるで付き合いたての頃のように新しい発見の毎日と共にこれからも続いていく。
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