誰も知らない



潮江文次郎は鬼である。
本物の、鬼である。
この世には、人でない者が混じっている。
それは特に珍しいものではなく、ただ当たり前に存在している。
「俺の角とは全然違うな」
「まあな」
この学園で犬猿の仲と呼ばれる留三郎も、同じく鬼だ。
鬼の角は、幼い頃は柔らかく、皮膚の一部のような突起。
しかし、大人の証として皮膚を突き破り、鋭く硬い角が生える。
時期は個人差があり、留三郎は五年の春に生え変わっていた。
文次郎の角は、今朝生え変わったばかりである。
「お前の一族は一本角だろう。うちは二本角だ」
留三郎の角は額に一本、一角獣のように真っ直ぐで雪のような白い角。
文次郎の側頭部から生える二本の角は、美しい曲線を描いて天を指し、根元から先まで血のように赤い。
長角の一族二人の角は傍目から見ても長く、美しい。
「触ってもいいか?」
「お前のとそう変わんねぇぞ」
「でも、触りたい」
留三郎の指先がまるで宝物にでも触れるように、怖々と文次郎の右角に触れる。
まるで川底で削られた石のような、さらさらとした冷たい感触。
「赤いから熱いのかと思った。俺のと全然違うんだな」
「熱くはねぇな。お前のも触らせろ」
文次郎も同じように、遠慮がちに留三郎の額の一本角に触れる。
「本当に、全然違うな。冷たくない」
留三郎の角は雪のような色味とは正反対の暖かみのある、少しざらざらとした木肌のような感触。
「もっと、触っていいか?」
片手で触れていた留三郎が文次郎に許可をとって両手で、大切そうに角を撫でる。
熱そうに見えて冷たい。それは熱血に見えてどこか冷静で理論派な、文次郎らしい角だと感じた。
「この角、もう誰か触ったのか?」
「そうそう触らせるか。お前が最初だ」
留三郎の心が歓喜に満ち溢れる。
まだ真新しい、誰も触れていない角。
留三郎以外にはまだ触れさせていない、その場所をもっと知りたかった。
れろり、
留三郎がその角を舌で舐める。
「おいっ、」
「味はしねぇな」
「当たり前だ馬鹿・・・」
睨む文次郎の頬が赤く染まる。
感触はなくとも、恥ずかしさが残る。
「俺ばっかり不公平だろうが。お前も味、教えろよ」
文次郎も留三郎の額の角を舐める。
「ほんとだ、味しねぇ」
ふふ、と笑い合う。
角の味は知った。
他にももっと知りたくなった。
互いの、他の誰にも触れさせない場所。
唇を重ね合う。
額の一本角と側頭部の二本角は、唇を重ねるには都合が良いのだと知った。

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