ポッキーゲームをしないと出られない部屋2021
ポッキーゲーム、というものを知っているだろうか。
2人で両端からポッキーを咥えて、少しずつ食べていき先に折った方が負け、というルールの遊びである。
「つまりキスしたくない奴らのチキンレースだろ。余裕じゃんか」
部屋に貼られた紙には雑に『ポッキーゲームをしないと出られない部屋2021』と書いてある。
2020とか2019も聞いたことはないし、2022があるとも思いたくないし、どこからどう見ても仙蔵の字である。
「付き合ってんのに今更キスしたくないとかねーだろ」
そう、潮江文次郎と食満留三郎は高校の頃から付き合い、恋人という関係になって既に3年、今更キス程度恥ずかしくない程度に深い仲になっている。
「な、文次郎」
ポッキーを片手ににっこりと笑う留三郎の表情に悪意が混じっているのを感じる。
確かに文次郎とて今更キス程度に恥ずかしがるほど初心でもない。
ただし、ここは大学学生寮の談話室でなければ、の話だと文次郎は心で付け加えたい。
誰が通りがかるかも分からないこの部屋でするのは別問題だ。
「嫌だ」
あと、文次郎から積極的にキスを進めたこともない。
「でも出られねーんだとよ」
「絶対に、嫌だ。どうせ書いてあるだけでドアくらい開くに決まってんだろ」
そう言って文次郎が扉に向かうと、留三郎がそれを制した。
「良いじゃねぇか、ゲームくらい」
「あいつらの暇つぶしに付き合う理由がないだろうが」
どうにもいいように乗せられている気がする。
というよりも、留三郎が面白そうなのが気に入らない。
「留三郎、お前、一枚噛んでるな」
「そんなことするかよ」
その返答スピードが怪しい。絶対噛んでいる、というよりも仙蔵に唆されたか。
「見返りに何渡した」
「・・・食券3枚」
予想通り。そして仙蔵の狙いは食券ではなく後で文次郎を揶揄うことだと確信を持って言える。
「で?文次郎くんの今夜の予定は明日の試験のための勉強と言ってましたが、やらなくていいんですかー」
「語尾を伸ばすな腹が立つ。部屋に戻りゃあいいんだろうが」
「だーかーら!この部屋からは!ポッキーゲームをしないと!出れません!」
断固として譲らないらしい。
そもそも、この計画の意図は文次郎自身よく分かっている。
「あーもうめんどくせぇ!!これでいいだろうが!!」
怒鳴りながら勢いよく留三郎の唇に口付ける。そうだ、これでいい。ポッキーゲームにかこつけた姑息なやり方が気に入らないのだ。
「して欲しけりゃ!正直に言え!!」
ポッキーゲームはしていないが、予想通り扉は開いた。
談話室には座り込む真っ赤な顔をした留三郎と、机の上のポッキーだけが残された。
「やっぱ可愛いわ」
自分からしておいて真っ赤な顔をした文次郎を思い出して、留三郎は小さく呟いた。
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