アナタとアタシ




ここは大川女学園。聖なる乙女の集まる花園である。

「文、行くぞ」
「ん」

女の園であるこの学園には様々なしきたりがある。
その中でも最も異様なのが「王子」と「姫」である。
学園内で最も優秀な二人が持つ称号。それは一般的な学校であれば生徒会長と副会長と呼ばれるものであるが、この学園ではそのように呼び、王子と姫に憧れを抱くものが多い。
立花仙里(せんり)と潮江文(ふみ)はそんな大川学園の63代目姫と王子である。

「潮江様って本当にかっこいいわよねー」
「立花様は麗しすぎて近寄りがたいくらい」

二人は生徒たちの憧れの的だ。

「だ、そうだぞ。文」
「うるせぇ、お前に言われたくねぇよ、仙」

全寮制のこの学園の自室。同室の仙里と文は人前ではありえないようなだらけた姿でいた。
姫と王子は必ずしもどちらが生徒会長というわけではなく、王子と姫の名に相応しければそちらが姫、もう一方が王子となる。
今年は生徒会長の仙里が姫、副会長の文が王子であった。

「お前は本当はこんなに可愛いのになぁ」

文のベッドの枕元にはたくさんのぬいぐるみがあった。猫、犬、ウサギ、クマ、どれも可愛らしい意匠のものばかりだ。

「お前はこんなに大雑把なのにな」

対して仙里の部屋は出しっぱなしの本や食べっぱなしのお菓子などで散らかっている。それらを集めて文が片付け始めた。
「お前、本当にアタシがいないと部屋汚ねぇよな…せめてゴミだけでも捨てろよ」
「お前がやってくれるからわざわざ私がやる必要はないだろう」
「……はぁ…」
高慢ともとれる態度で文に命令する仙里。これが二人の日常だ。





中略




「で、何?留さんは町であった名前もわからない大川女学園の生徒に一目惚れした、と」
「ち、ちげぇよ!絡まれてたから助けたら!あの野郎『自分でなんとかできた』とか言いやがったんだよ!」

伊作と留三郎地元のバーガー屋で、まぁいわゆるコイバナをしていた。

「あーあ、俺は彼女なんかいらないとか言ってた留さんが一目ぼれとはねぇ。人間、わからないもんだよねぇ」
「だからぁ!ちげぇって!あいつが落としてったキーホルダー返してぇだけだよ!」

顔を真っ赤にしながら叫ぶ留三郎に説得力はなかった。

「それで、どんな子なの?可愛い系?綺麗系?大穴で留さんB専だったりする?」
「どれでもねぇよ。なんつーか、女なのに男みてぇな」
「え?ヅカ系?」
「ヅカって…そこまでじゃねぇよ。なんだろう、女にもてそうな女っつーか」
「あー、そっち系かぁ…じゃあ大川の友達に聞いてみるね」

伊作はスマホを操作していたので、どうやらLINEか何かをしているようだ。

「あ、返信来た。え?王子?ん?大川って女子校じゃなかったっけ?え?意味わかんないんだけど?」

クエスチョンの多い発言。一体どんな返事が来たのやら。そう思っていた留三郎に伊作がスマホの画面を見せた。

「ねぇ、留さんが探してたのってさぁ、この子?」

そこには留三郎が探していた大川女学園の生徒の写真があった。





中略






伊作と留三郎が大川女学園にいると、一人の生徒が声をかけてきた。どうやら伊作の友人というのは彼女のようだ。
彼女は留三郎の方をちらりと見た。

「ねぇ、食満くんだっけ?潮江様に渡したいものがあるんだって?それ、預かって渡しておこうか?」

大川は男子禁制、行事でもない限り男子生徒である留三郎は校門をくぐることすらできないのだ。
しかし、留三郎とて伊作にはああいったが、本当に落とし物を渡すだけというわけではない。

「いや、その潮江って子呼び出してもらえればいいんだけど」

彼女と話していると、正門付近が急にざわつきだした。

「あ、ちょうどいいわね。潮江様と立花様だわ」

正門の中を少しだけ覗くと、そこには二人の生徒のためにまるでモーゼの十戒のような光景が伊作と留三郎の目に飛び込んできた。

「え?あれ何?」
「右の髪がサラサラで美しい方が立花様、左の凛々しい雰囲気の方が潮江様よ」





中略





「なぁ、文は本当に仙里でいいのかよ。本当はただの友情なんじゃねぇの?」
「うるさい!アタシは仙が好きなんだ!勝手に人の感情否定すんじゃねぇよ!」

文は留三郎に向かって力の限り叫んだ。
留三郎にはその姿さえも魅力的に見えた。そして、それが仙里のための激情であることに嫉妬した。

「なぁ、女同士なんて…」
「それの何が悪い!どうせ人間なんてのは男か女の2分類しかねぇんだ!だったら同じ方を選んだっていいだろうが!」

わかっていた。文はきっと留三郎には靡いてくれない。文と仙里は、まるでそれだけで一つの形なのだ。

「悪かった。なぁ、文。俺やっぱり器用じゃねぇみたいだ」
「知ってた」
「あぁ、そうだな。俺も知ってた。だからさ、俺の整理がつくまで、少し距離おいてもいいか?」





中略





「なぁ、文。本当にこれで、よかったのか?留三郎のこと」
「いいんだよ。アタシは仙が好きだ。それに、留のことはただの友達以上には見れねぇし、それが耐えられねぇから留はアタシから離れるっつったんだ。もうアタシに引き留める権利は

ねぇよ」

二人だけの部屋、可愛い文と大雑把な仙里。いつもの日常が帰ってきた。

「なぁ、仙はどうなんだ?」
「私か?そうだなぁ、留がおらんと揶揄う人間が減る。だが、私はお前がいれば十分だ。愛してるよ、文」



そういって二人は口づけを交わした。


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