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「私の勝ちだな」
文次郎と賭けをした。
負けたら寝るまで、勝った方の言うなりに。
「ちっ、何すりゃあいい」
何をされるのか、これまでの生活で仙蔵にほろくな目に合わされていない文次郎の諦めはいっそ潔い。
「服を脱げ。上だけでいい。そのまま、そこに座れ。ああ、本が読みたければ好きにしろ。持ち帰った委員会の仕事でも、予習でも。私は私で好きにする」
仙蔵の言うなりになるしかない文次郎は、上衣だけを脱いで、その筋肉質な身体を晒す。
忍務で、授業で、実習で、その身体には様々な細かい傷がある。
決して美しいとは言えない、日に焼けた肌に仙蔵は白く細い指を滑らせる。
「おい、」
「動くな。そのまま、じっとしていろ」
仙蔵の文机に置いてある筆に、墨を染み込ませる。
さらり、筆が文次郎の背中を撫でると、文次郎の身体が小さく震えた。
「…っ、仙蔵っ、」
「だから、動くな。賭けに負けたのはお前だ。今のお前は、私の言うことを聞がなければならない。そういう約束だろう?」
約束、と言えば文次郎は逆らわない。
仙蔵はくすりと笑って引き続きその背に筆を滑らせる。
墨に濡れた筆先が肌を這う感覚は決して気持ちのいいものではないはずであるのに、ふるふると震える文次郎の背が受け取った感触がただ不快なだけではないのだと仙蔵に伝える。
無言の時間が続く。仙蔵は静かに文次郎の背に筆を走らせ、文次郎は筆が与える僅かな刺激に声が漏れないよう、歯を食いしばる。
「血が出るぞ」
仙蔵が文次郎の唇に指を滑らせた。
「口を開けろ」
今日は言うなりになる。その約束に従って文次郎が薄く唇を開けると、仙蔵の指が口内を侵す。
文次郎が仙蔵の指を傷つけられるはずもなく、文次郎が声を抑える方法は奪われたも同然であった。
「続きだ。じっとしていろよ」
文次郎の口内を左手で侵しながら。右手で背中に筆を走らせる。
無造作に走らされるようなその筆が何を描いているのか、文次郎にはわからない。
「…、ふ、」
時折漏れる声は皮膚を滑る筆のせいか、口内を這う指のせいかはわからない。
暫くすると、筆が止まった。
「終わり、だ」
筆が離れると同時に口内から指が抜かれる。
「何を書いていたか、知りたいか?」
「そりゃあな」
「そうさなぁ、私のものだという証を書いた、とだけ。持ち物には名前を書くべきだろう?」
「俺は所有物か、っ、あ」
呆れた顔の文次郎のさらされたままの首筋をれろりと舐める。
「突然何しやがる」
「なあに、少々悪戯が過ぎたと反省をしているところでな。詫びに、その身体に奉仕でもしてやろうと思ってな」
筆のもどかしい感触に勃ちあがった文次郎の自身を揶揄した。
「さて、そのまま、動くなよ」
背に描いた蛇の眼が、私をじっと見ている気がした。

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