たまには素直に
「おい、文次郎。私はあまりお前から愛の言葉をもらったことがない。そこでいい機会だ。私は後ろを向いて耳を塞いでやるからたまには素直になれ」
仙蔵の思いつきはろくなことが無い。文次郎はいつも仙蔵の突飛な発想に振り回されている。
文次郎にとっては学園長の思いつきと仙蔵の文次郎に対する思いつきは大差ない程度には迷惑だ。
「ほれ、たまには素直になってもバチは当たらんだろう。私は耳を塞いでやると言っているのだぞ。これほどの機会はなかなかないだろう」
嘘だ。絶対に耳を塞ぐ振りをして聞いているに決まっている。
「疑い深い文次郎のことだ。どうせ私が密かに聞いていると思っているのだろう?信用のないことだ。文次郎、お前が私の耳を塞げばいいだろう」
仙蔵は文次郎の思考をことごとく先読みする。
「ほら、それともお前は私のことが好きではないのか?お前は好きでもない男と忍務でもないのに毎晩のように寝るような男であったのか?」
文次郎は早々に白旗を上げた。
文次郎は仙蔵に弁舌で勝てた試しがないのだ。
「わーった!わーったよ!やりゃあいいんだろ!おら、後ろ向け!」
諦めたように言うと、仙蔵は素直に後ろを向いた。
文次郎は背後から仙蔵の美しい髪に手を入れ、耳を塞ぐ。
「せ、仙蔵⋯俺はだな、その⋯」
聞いていないと分かっていながらも文次郎の顔は羞恥で赤く染まる。
しかし、いい加減に覚悟を決めたのか、文次郎は言葉を紡ぐ。
「その⋯お前の美しい髪が好きだ⋯火傷だらけの指先が好きだ⋯お前のよく通る声が好きだ⋯お前の気高い眼が好きだ⋯お前の踊るような字が好きだ⋯お前の人に見せない努力が好きだ⋯お前の不遜に見せて不器用なところが好きだ⋯お前の⋯お前の全部が⋯好きだ⋯」
文次郎の短いようで、仙蔵ですら予想外であった告白が終わった。
「⋯文次郎、私もお前の全部が好きだ⋯愛しているよ」
真っ赤になった文次郎が、仙蔵が鏡台越しに唇を読んでいたことに気づくまで、あと少し
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