想いを込めて、君に贈る



デパートのお菓子売り場の隅でスマートフォンの画面を睨む。
その仕草だけで絵になりそうな男は、ホワイトデー五日前のサラリーマンでごった返すその場所で、同じくホワイトデーのお返しを買いに来たのだ。
昨年は散々だった。
文次郎の好きな高級チョコレートをお返しに渡したその光景を親友に見られ、そして「ホワイトデーのお返しにチョコレートって、あなたの気持ちは受け取れませんって意味になるらしいよ」と言われ、意味を知らない文次郎はともかく知ってしまった仙蔵自身は気になって仕方がなかった。
今年こそは同じ過ちを繰り返すまいとインターネットで意味を調べれば、ますます何を送ればいいのかが分からなくなってきたのだ。
「マシュマロとクッキーもダメか…は?グミも駄目なのか?」
色々と面倒なことだと思いつつ、無難なのはケーキやプリンなど、特別な意味があるものはキャンディ、金平糖などなど。
サイトによって内容もまちまち。そうして悩むこと30分、そろそろ悩むことにすら飽きるというものだ。
「よし、ではこれだな」
とあるサイトで気になる物を見つけ、何も買わずにデパートをあとにする。
目当ての品はここにはないのだ。

ホワイトデー当日、用事があると言っていつも買う店よりもほんの少し高級なパン屋へ向かう。
目指すは、アップルパイ。

「文次郎、ハッピーホワイトデー。今日はπの日だそうだ」

3.14。円周率。π=パイの日、らしい。
この想いは他人が考えた意味に左右されるようなものでは無いのだ。
ならば、ほんの少し笑えるような、そういうものがいい。
そう思って渡せば、案の定文次郎は笑いながら受け取ってくれた。

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