猫になった日
にゃあ、
にゃあ、
目が覚めると、何やら不可解な自体になっていた。
言葉を話そうとしても妙な鳴き声に変わる。
たし、たし、
立ち上がろうとしても、手は床を叩くだけで一向に立ち上がれない。
よく見ると、手は短く、毛深く、まるで、猫。
そう、猫である。
にゃあ
この鳴き声、この手、柔軟になった身体を捻ると、くるんと丸まった尻尾を見つけた。
にゃあ、
猫に、なったのである。
にゃあ、
まぁ、この学園生活、何があってもおかしくない。
誰やらの薬なのか、誰やらの幻術なのか、心当たりはいくらでもあるので仕方なく開き直って学園を散策することにした。
にゃあ、にゃあ
たし、たし、
その前に念の為、同室の無事を確認する。
今までこんなに近くで同室の寝姿を見たことがあっただろうかと考えて、ふと、共寝をした朝目が覚めた時に見る顔はもっと近くにあるのだと気づく。
同室の姿が人であることを確認して、部屋から出て行こうとするとその長い指に捕まった。
「どこから入った?」
布団の中から伸びる手のひらが、ふわりと背を撫でる。
「目の下に隈模様なんぞ、どこぞの文次郎のようだな」
にゃあ
どこぞの文次郎は俺に違いないが、まぁ気付くはずもないだろうとひと鳴きすると、撫でる手が止まる。
「あれも猫のように可愛げがあればいいが、仕方の無いことだな。夜にすら住処に戻ってこぬのだから帰巣本能もないらしい」
いつもは欲の混じる指先が、ただ緩く、柔らかく撫でるのが嬉しくて擦り寄る。
どうせ俺だと分からないのだから、これくらいしたっていいのだ。
「お前、外へ行くならついでにお前によく似た男に伝言を頼むよ。もっと部屋に居る日を増やさないと、猫に布団を取られてしまうぞ、と」
少し寂しそうな声を聞いて、離れた指先に小さく口付けた。
驚く指先を尻目に戸口へと向かう。
このままここに居ると、きっと温もる身体が離れがたくなって、そのまま猫で居続けたくなってしまう。
「外へ行くのだろう?」
からりと戸を開けられると、俺は外に出た。
「あと、たまにはそうして素直に甘えてくればいい」
流石は同室、この学園の不思議な自体にも気付いていたのか。
擦り寄ったことに恥ずかしさを覚えつつ、人に戻ったらもう少しこの部屋で寝る日を増やすことと、たまにはこちらから口付けてやろうと心に誓った。
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