大虎



「文次郎、お前は可愛いな」
大晦日の夜中から始まった六年生の年越し宴会。
除夜の鐘の瞬間に「あけましておめでとうございます」と挨拶をし合って引き続き飲み会再開。

そして、朝にはこの大虎がいたという訳だ。

「文次郎は本当に可愛い」
「愛してる」
「大好きだ」

「あー、わかったわかった。俺も愛してるから。部屋戻るぞ」
顔を真っ赤にして絡む仙蔵を宥める。
ザルやらワクやらと言われる仙蔵だが、案外そうでもなく呑めば酔うし赤くなる。
自覚のある本人も普段はあまり呑まないが、この年越し宴会だけは遠慮なく呑む。
そして文次郎が呑まずに宥める係、という訳だ。
「文次郎頼んだよー」
「・・・こちらは任せろ」
「もんじろー!!せんぞーー!良いお年をー!」
「・・・小平太、もう元旦だ」
「もんじろーしょうぶだぁ・・・むにゃ・・・」
「留三郎起きてよぉ」
同じく大虎小平太と寝こけている留三郎は各々の同室に任せて、文次郎も仙蔵を引き摺って部屋に戻った。

「ほら仙蔵、水飲んで寝るぞ」
「口移しか?同衾か?」
「やるかバカタレ」
絡み酒の仙蔵は飲むとひたすらこんな調子で文次郎に愛を囁くのである。
小っ恥ずかしいからやめてくれなんて言って酔っ払いが聞いてくれるはずもなく、仙蔵が眠るまでこの告白大会が続くのだ。
「文次郎の声は色っぽくて好きだ」
「顔も、案外気に入っているのだぞ」
ずっとこんな調子で囁かれるものだから、文次郎の心臓がもたない。
「仙蔵、いい加減に、」
抗議の言葉を、酒の匂いのする唇が吸い取る。
「赤い顔も、可愛いな」
「おい、」
「眼も、潤んで、食べたくなる」
舌が、眼を、
「いい加減にっ!しろっ!この酔っ払いがっ!」
酔っ払い相手に容赦もあるかと懇親の力で殴る。
きっと次に目が覚めた頃には酔いも覚めていつもの立花仙蔵なのだろう。
「酒の勢いで済まされてたまるか」
厠に行くふりをして頬紅をさしていることに、気付かないと思っているのだろうか。
ザルどころかワクに等しいことなどとうに気づいている。
「騙されたふりはしてやるよ」
たまには聞き慣れないあいつの賛辞も悪くないけれど、その先は赦さない。
素面でおととい来やがれ。

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