幻の女
互いの唇に小指で紅を指す。
「上達したものだな、」
「あんだけ罵られりゃあ意地でもな」
口から漏れ出る声は、正しく男の低音。
「黒の方が似合うと言っただろう?」
二人の肩から零れる長い黒髪。
「目も、頬紅も、白粉も、まるで本物の女性だな」
指先が白粉の乗った頬を撫でる。
偽物の乳房を作った胸元を覗き、そこに唇を寄せて、乱して、本物の"おんな"にしたくなる衝動に駆られる。
「他の男にも、誰にも、見せたくないものだ」
「俺だって、昔からそう思ってる」
自分だけの女でいて欲しいという我儘は叶わない。
これはあくまで忍務のための女装。
自分ではない、他の誰かを惑わせるための女装なのだ。
「お前が、私のものだという証だけでも残してやろうか」
「そりゃあいい」
裾を割ると、女に成る為に丁寧に剃られた太腿が覗く。
「ここは、私だけのものだ」
ちゅ、と紅の乗った唇が太腿の内側に吸い付く。
「んんっ、仙蔵、俺もいいか?」
「当たり前だ」
仙蔵の白い太腿が露出する。
そこを同じように、紅の乗った唇が太腿の内側に証を残す。
「あっ、ん、文次郎、痕は着いたか?」
「あぁ、」
紅潮した頬とほんの少し潤んだ瞳が色香を漂わせる。
互いの心は同じ。
本当はその太腿よりも奥まった、いくらおんなに成っても隠せない、男の証を唇で可愛がって、指先で溶かして、その化粧で美しく飾った顔を欲と涙で汚したい。
欲に満ちた雄の顔を化粧の下にしまい込んで、二人はじんじんと火照る跡を丁寧に指で辿りながら、裾を直した。
「そろそろ時間だな」
「そうだな。行くか」
学園から出て、忍務中はお仙と文子だ。
「痕、見られるなよ」
「お前もだ」
内腿の痕を見られれば、互いが誰かの物なのだと知れてしまう。
「では、行きましょうか、お仙」
「そうですね、文子」
美しき幻の女が二人、見知らぬ男を虜にする為に街へと消えた。
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