Candy Trap
飴をころころと舌で遊ばせる音がする。
音の元は、文次郎の口内。
「美味そうなものを食べているな」
飴玉を砕かないように転がす仕草を見て、その唇を奪いたい衝動に駆られた。
「小平太に貰った」
飴の出処のことだろう。その一言だけ返して文次郎は再び飴を転がす。
「ハロウィンだからな、今ならまだ残ってると思うぜ」
じっと見ている私を見て勘違いしているのだろう。飴が欲しい訳では無い。
飴を転がすその唇が欲しいのだと、目の前の男は分かっていない。
「文次郎、トリックオアトリート」
ハロウィンの呪文を唱える。
手元には菓子はないようだ。
「ちょっと待て、今探すから」
「そこにあるだろう」
机を漁ろうとする手を掴んで、唇を奪う。
舌先で唇をつつくと、慣れいうものだろうか、薄く開いた唇に舌を潜り込ませて、だいぶ小さくなった飴玉を攫った。
「ん、」
鼻にかかったような文次郎の声に満足をする。
唇を離すと、そこには予想通りの表情をした文次郎が居た。
「仙蔵、てめぇ、」
「私はちゃんと菓子か悪戯かと聞いたぞ。菓子をくれないならば悪戯をするに決まっているだろう」
私を睨みつけるその目に、微かに欲が混じっている。
これだけで満足出来ないよう、身体に教えこんだのは私だ。
「今度はお前の番だよ、文次郎」
私も、渡す菓子は持っていないぞ。
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