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apetite


ハロウィンの夜、仮装をした人の波。
その中に紛れ込む二つの影。
一人は黒いスーツに悪魔の羽、白い巻き角、絹のような黒く美しい髪の男。
もう一人は同じく黒いスーツに黒い猫耳、猫の尻尾を生やした不揃いな双眸に薄墨の隈の男。
浮かれた空気に馴染んだような二人はこの祭りに正しく便乗した者たちである。
「人間の浮かれた欲望、なかなかの美味だなぁ、文次郎」
「食いすぎて腹壊すなよ」
二人の主食は人の欲。人の多いこの場は格好の餌場なのだ。
「どうせあとでお前がくれるんだろ?十分だ」
主人である悪魔の仙蔵と違って使い魔の文次郎はそのまま人の欲を食べ過ぎればその味の濃さに酔ってしまう。
仙蔵が食べて選び抜いた欲を文次郎が下げ渡す。代わりに主人に付き従う。これが使い魔と主人の利害関係だ。
「そうだな、ではそろそろお前の食事の時間だ」
人目を気にせず深く口付ける。どうせこの人の多さだ。誰も見てはいまい。
見られたところでどうせ大した問題ではない。
人の世の理に縛られる存在ではないのだ。
「美味いか?」
仙蔵が文次郎の唇をペロリと舐めとる。
「あぁ、悪くねぇ」
文次郎がにやりと笑う。
使い魔にとって主人から与えられる餌は蜜のように甘い御馳走なのだ。
「Trick or Treat」
文次郎が甘い菓子を強請る言葉を吐けば、もう一度深く口付けられる。
まだまだ食事はこれからなのだ。


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