スイーツバイキング
「さて、ここに某ホテルのスイーツバイキングの割引チケットがある」
立花仙蔵が話を切り出す。
目の前にいるのは隈の酷い男が一人。
「そうか」
仏頂面をさらに不機嫌そうに歪ませて小さく返事をする。
この大川学園一『スイーツバイキング』という言葉の似合わなさそうな男の名前は潮江文次郎。彼女でも連れて優雅に「ここは私の奢りだ、好きなだけ食べろ」と恥ずかしげもなく『スイーツバイキング』という男には敷居の高すぎる店に馴染めそうな立花仙蔵の幼馴染である。
「繰り返し言う。某ホテルのスイーツバイキングの割引チケットがある。さらに言えば期限は来週の日曜日までだ。そして明日は平日だが学校は創立記念日で休み、店は高校生がおいそれと行ける値段の店ではない。よって恐らくだが知り合いはいない」
そこまで言えばわかるな?
そう仙蔵が目で訴える。
文次郎は無言で頷いた。
***
――――某ホテルロビー
「おい、仙蔵。本当に大丈夫だよな……」
仙蔵はスタイルもいいし顔もいいので、ただのブレザーが様になる。しかし文次郎は適当に家にあるYシャツにジャケット、スラックスという出で立ちだ。正直ただの仕事帰りのサラリーマンにしか見えない。
仙蔵も雰囲気から私服であれば高校生には見えないが、それでもせいぜい大学生程度だ。
その上慣れない文次郎は挙動不審なので怪しいことこの上ない。
「文次郎、いい加減に腹をくくれ。そうすれば好きなだけ好きなケーキが食べられるぞ」
堂々とホテル内を進んでいく仙蔵はいっそのことすがすがしい。
仕方なく文次郎もそのあとに続き、店に入った。
店内に入ると、当然ながら客はほとんど女性。男性といえばちらほらとカップルの片割れがいるだけである。
ただでさえ弱腰の文次郎はますます腰がひけるが、仙蔵は容赦なく席を取った。
「ほら、行くぞ」
座席確保のために仙蔵はベストを、諦めた文次郎はジャケットを置いてケーキを取りに行く。
今日は秋の味覚フェアということでやはりモンブランやマロングラッセなどの栗のケーキが多めだが、文次郎も仙蔵も目当てはそこではない。
少ししてから文次郎と仙蔵が席に戻る。
予想通りではあるが、スイーツバイキングに来る男性二人は目立つらしく(その原因の一つは仙蔵の顔が端麗であることもあるが)周囲の女性の注目を集めている。
しかし、それは同じくらいに二人の皿の上にも注がれていた。
ホテルのケーキバイキングではどのケーキも上品に小さめに切り分けられている。
文次郎の皿にはイチゴのショートケーキ、イチゴのムース、プチシュークリーム、カスタードプリン、ロールケーキ、ミルフィーユ。
クリーム系の甘いものばかりである。
対して仙蔵の皿の上にはオペラ、ガトーショコラ、フォンダンショコラ、チョコフォンデュのイチゴ、マシュマロ。
とにかくチョコ尽くしだ。
「おい、じゃあ分けるぞ」
仙蔵が声をかけると、文次郎は自らの皿のケーキたちを二つに切り分ける。
仙蔵も同じように切り分け始めた。切り分けられない物はそのままだ。
「おい、仙蔵。マシュマロ一つしかねぇじゃねぇか」
「プチシューもだろうが。どうするつもりだ」
「仕方ねぇだろう。プチシューは補充直前で最後の一個だったんだよ」
話しながらすべてのケーキを綺麗に二つに切り分けると、相手の皿に移していく。
周囲の目はもう気にするのを諦めたらしいが、その周囲の目が男二人で来ていることよりも二人で「半分こ」をしているということに興味を示していることには気づいていない。
残念ながらいつものことなのだ。
「では、プリンは先に食べろ。半分残しておけよ」
切れないものは回し食べである。
「やはりこの方法が一番効率がいいなぁ。おい、仙蔵。次は俺が抹茶系行くからお前はフルーツ系とゼリー系頼むぞ」
「だな。お前の抹茶系選びは間違いがないしな」
「チョコ系はやっぱり仙蔵の選ぶのが一番いいなぁ」
このスイーツバイキングの空間で最もリア充に近いのは、きっとこの二人である。
まだまだスイーツバイキングの男二人の暴走は続く。
ちなみにいちいち回すのが面倒になった文次郎が抹茶シフォンで世にいう「あーん」をした瞬間が写真に撮られて目線を着けてツ〇ッターに投稿され、「スイーツバイキングで年の差リア充ホモォなう」という投稿が1万RTを超えたことを文次郎は知らない。
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